市場調査 2025年06月13日09:15

ベトナム経済と製造業 2024年の振り返りと2025年の展望

ベトナムの経済や製造業の2024年振り返りと2025年の展望について経済団体の代表と製造業企業の代表にご意見していただきました。

ベトナム経済と製造業 2024年の振り返りと2025年の展望

ベトナム経済と製造業 2024年の振り返りと2025年の展望

 

ホーチミン日本商工会議所(JCCH)
会頭 埜﨑孝雄氏

    2024年は世界中で地政学的リスクが高まる中で、日本企業にとってベトナムが益々重要な位置付けとなった一年だったと感じております。そうした状況下、JCCHがこれまでに関わってきたホーチミン市をはじめ、ドンナイ省、ロンアン省、ビンズン省、バリアブンタウ省などの地方政府は、どこも一貫して親日的であり、日本企業に対して大きな期待を寄せています。法律を遵守し、しっかり納税をして、雇用を増やすという日本企業の誠実な姿勢が、長年にわたって積み重ねられた信頼関係の源であると実感しています。
 12月9 日には、ホーチミン市人民委員会とJCCH とのラウンドテーブルを実施しました。議論は予定を1時間超えるほど白熱しましたが、その結果、今年度の16 件のJCCH からの新規要望のほとんどにおいて、大きな進展がありました。さらに、ホーチミン市側からは日越両国の企業間交流を促進する提案があり、ビジネスマッチングの実施やこれを推進するコーディネーターの設置などについて、JCCH としても連携していく予定です。今後もこうした機会を活かして、日越両国の企業間交流をさらに促進していきたいと考えています。
 その一方で、ベトナムでの日本の存在感が低下しつつあることを懸念しています。中国がグローバル大国としての地位を確立し、韓国や台湾が先端技術で日本をリードする時代が到来したことで、日本の存在意義が転換点を迎えているのでしょう。こうした変化を踏まえ、日本が今後どのようにベトナムと共に歩んでいくかが重要な課題になると考えています。
 2025年に向けては、日越両国がより強固なパートナーシップを築くために、互いの文化や価値観を尊重し、経済的な協力関係をさらに深める努力が求められます。特に、日系企業の進出がもたらす雇用創出や技術移転を通じて、ベトナムの発展に貢献し続けることが重要です。そのためにも、引き続き誠実な姿勢でベトナムの人々との信頼関係を築き、課題解決に向けた取り組みを進めていきます。

 

ベトナム裾野産業協会(VASI)
会長 ファン・ダン・トゥアット氏

    2024年、ベトナムの裾野産業は飛躍的な進展を遂げ、その成長は主に以下の3つの側面に表れています。
 第一に、裾野産業に参入する企業の数が大幅に増加しました。当協会には現在、機械、電子、プラスチック、ゴムの4つの主要分野で活動する約400社の公式会員が加盟しています。これら400社以外にも、ベトナム全土で約1000社の裾野産業企業と緊密な連携を築いています。2022年と比較すると、正式会員数は2倍に、連携会員数は4倍に増加しました。これは当協会の重要なマイルストーンであると同時に、ベトナムの裾野産業の魅力が着実に高まっていることを示しています。
 第二に、2024 年には多くの裾野産業企業が大手グローバル企業からの受注を獲得し、グローバル・サプライチェーンへの参加が一段と進展しました。この動きは、企業の販売市場の拡大に貢献するとともに、ベトナムの裾野産業の競争力と国際的な評価を向上させています。
 第三に、航空産業向け精密部品製造など、ハイテク分野への進出を目指す裾野産業企業による技術および最新設備への積極的な投資が顕著でした。これにより、企業の生産能力が自主的に向上し、ベトナムが高品質部品製造のハブとなる目標に一歩近づきました。
 一方で、課題も依然として残されています。商業ローン金利の高さ、土地や工場建設費の上昇、輸入設備や原材料の価格高騰といった従来の問題に加え、2024年には地域や世界情勢の変動が新たな課題をもたらしました。特に中東での戦争により、過激派組織が紅海を支配したことで輸送コストが上昇し、サプライチェーンが混乱しました。また、中国と米国間の貿易戦争が続く中、2024年の米国大統領選挙の影響で不安定さが増し、多くの外国企業が租税回避のためにベトナムを拠点とすることで競争が激化しました。 それでも、2024 年のベトナム裾野産業の全体像を見れば、明るい面が際立っています。これらの成果は、裾野産業の発展を支援するための実践的な政策を推進したベトナム政府、特に商工省や工業局の努力によるものです。また、裾野産業の先進地である日本からの支援も大きな要因となっています。VASI 設立以来、特に2024年には、当協会の会員は、KEIEIJUKU、NC ネットワーク、日越金型クラブ、トヨタなどの日本企業や団体から、多岐にわたる研修プログラム、工場視察、経験共有の機会を得ました。
このような支援に深く感謝するとともに、2025 年には両国企業間の協力がさらに深化することを期待しています。
 現在、日本企業の多くはベトナムでの生産施設を拡充していますが、2025年には両国企業が共同出資や合弁といった新たな協力形態を模索し続けることを願っています。

 

在ベトナム・ドイツ商工会議所(AHK Vietnam)
代表 ピーター・コンパラ氏

    2024年は、ドイツとベトナムのビジネス環境にとって重要な節目の年となりました。ベトナムは東南アジアの経済成長を牽引するハブとして台頭し、ドイツ企業はさまざまな分野での関与を一層深めました。在ベトナム・ドイツ商工会議所(AHK Vietnam)として、私たちはこの1年を通じて、成功と課題の両方に直面しました。 
 2024 年、ドイツ企業はベトナムで堅実な存在感を示し、500社以上の企業が、ベトナムの戦略的な立地、若い労働力、そして急速に改善されるインフラを活用しています。11月にハノイで開催されたドイツとベトナムの協力関係を祝う 
主要なイベントでは、製造業、再生可能エネルギー、テクノロジー分野でのドイツからの投資と協力が際立っていました。また、テューリンゲン州、ザクセン=アンハルト州、ブランデンブルク州、ヘッセン州、ラインラント=プファ 
ルツ州からの大規模な代表団の訪問や、繊維・リサイクル業界の代表団の訪問もあり、ベトナムが信頼できる貿易・投資パートナーとして大きな関心を集めていることが示されました。さらに、ドイツ企業がベトナムの高品質な製品供給の可能性を探るための有益な関係構築を促進する上で、VASI(ベトナム裾野産業協会)の支援に感謝しています。 
 2025年は、ベトナムとドイツの外交関係樹立50周年を迎える節目の年であり、両国の協力関係がさらに発展することが期待されます。経済面では、ベトナムはドイツのバイヤーにとって、ますますダイナミックな市場としての役割を拡大していくでしょう。ベトナム企業は、生産プロセスの向上、持続可能性の尊重、先端技術の導入を進めており、これがアジアで信頼できる調達パートナーを求めるド 
イツ企業にとって、大きな好機となります。
 AHK Vietnam は、視察団の訪問、ドイツでのコンサルティングデーなど、さまざまな連携イベントを通じて、これまでの関係をさらに強化していきます。その中でも注目すべきイベントは、以下の2つです。まず、5月6日にホーチミン市で開催される「Automation – Made in Germany」。このシンポジウムでは、ベトナムの産業の競争力向上を支援するドイツの最新の自動化技術が紹介されます。次に、5月下旬にはベトナムの「TechDesign」分野の代表団がドイツを訪問し、IT とエンジニアリングにおける「Made in Vietnam」サービスを紹介して回ります。 
 また、ドイツ・バイヤー協会(BME)との連携で「調達イニシアチブ」が再開され、VASI(ベトナム裾野産業協会)会員がドイツで新しいビジネスパートナーを発掘する機会が提供されます。 
 AHK Vietnam は、信頼できる仲介者として今後も対話を促進し、信頼を築きながら企業に合わせたサポートを提供していきます。企業が二国間貿易の複雑さを乗り越え、持続可能な活動を推進することを支援し、この重要な協力関係を強化していきます。2024年に築かれた強固な基盤の上で、来たる年はさらなる成長、イノベーション、繁栄が期待されます。協力関係を通じて、ドイツとベトナムは 
ビジネスやコミュニティにおいて進歩を促し、両国の成功へとつなげていけるでしょう。この長きにわたる関係の可能性を共に実現していくことを楽しみにしています。

 

DIGIWIN SOFTWARE VIETNAM JSC
Cheng, Chia-Lin氏(社長)

   地政学的な変化の中で、ベトナムの製造業はその地位を確立しつつあり、特に米国との貿易関係がますます深まる中で力強い成長を遂げています。2024年には二国間貿易額が約900億米ドルに達すると見込まれており、ベトナムは米国にとって第4位の貿易黒字国となっています。これは、同国の柔軟な政策運営能力と、グローバルなサプライチェーンにおける重要性の高まりを示すものです。

    ベトナム政府は、企業が国際基準に適応できるよう導く役割を担っています。代表的な例として、企業に対する温室効果ガス排出量のインベントリ報告の義務化があり、これは法令遵守であると同時に、製品競争力を高める機会でもあります。しかし、カーボン税の導入は企業にとって新たなコスト負担を生み出し、ESG(環境・社会・ガバナンス)基準の遵守とコスト管理の効率化の両立が求められています。

    このような課題に直面する中で、生産コストの管理、省エネルギー、電力消費の最適化は、競争優位性を維持する上で重要な要素となっています。企業は積極的にデジタルトランスフォーメーションを推進し、正確なカーボン排出データシステムを構築することで、法令遵守と持続可能な成長の両立を目指さなければなりません。

    まとめると、ベトナムの製造業は目覚ましい成果を挙げてきた一方で、グローバル市場の変動や貿易政策の変化により、大きな圧力にも直面しています。企業は革新の精神と主体的な適応力を持ち続け、ますます競争が激化する環境の中でも、しなやかに生き残り、発展していく必要があります。

 

AUTOMECH MECHANICAL EQUIPMENT AND SOLUTIONS JSC
ホー・ゴック・トアン氏(副社長)

    弊社の視点から見ると、2024年のベトナム経済・産業は多くのポジティブな成果を上げました。世界的な不安定要素の影響を受けつつも、特に製造・加工分野では安定した成長基調が維持されました。国内外の企業による投資の増加が経済の強化と発展を後押ししました。特に、自動車製造、部品、精密機械分野が引き続き外国投資家の関心を引き、裾野産業が着実に成長しています。その結果、現地生産率の向上と輸入依存の軽減が進んでいます。
 ただし、これらの成果がある一方で、ベトナム企業は依然として多くの課題に直面しています。国際競争が激化する中で、企業は常にイノベーションを追求し、競争力を高める必要があります。また、質の高い技術者の不足は未だ解決困難な問題です。加えて、気候変動や世界的な貿易摩擦といった予測不可能な要因が経済にさらなるリスクをもたらす状況は変わっていません。
 2025年の展望として、弊社は裾野産業が飛躍的な好機に恵まれると予測しています。大規模な公共投資プロジェクト(高速鉄道、空港、高速道路など)は、この分野の製品やサービスの需要を大いに刺激するでしょう。また、世界的な地政学的リスクが、生産拠点をベトナムに移転する企業に有利に働く可能性があります。しかし、この機会を最大限に活用するためには、国内企業が生産能力を積極的に向上させ、国際基準をクリアし、グローバルサプライチェーンに深く関与する努力が求められます。
 工業生産向けの包括的なソリューションプロバイダーとしての役割を担うAutomech は、2025 年にさまざまな取り組みを強化していきます。まず、ソリューション設計チームへの投資を拡大し、製造企業に供給するためのハイテク機器を市場に投入し続けます。また、他分野における裾野産業の生産拠点を拡大し、既存のサプライチェーンからの受注をつなげるチャネルを構築します。さらに、外国企業との協力関係を強化し、新たな受託加工の機会を積極的に模索・促進することで、ベトナムの裾野産業市場における技術と供給の懸け橋となることを目指します。

 

Techno Vietnam Industries, Ho Chi Minh branch
賀川正弘氏(Sales manager)

    2024年は、表面的には目立って悪い状況は、営業活動のなかで見られませんでした。適度に依頼がきて、適度に注文につながり、悪くもなく、良くもないような、「とりあえず(経済活動が)動いている」ように感じました。 ただ、お客様からは、「景気は回復してきていると思うが、まだ、コロナ前の生産に戻っていない」「将来、もっと忙しくなるのかどうかわからない(景気の不透明感)」という声がよく聞かれました。 
 ベトナム人の知り合いからの情報では、「国営企業でもかつてのように、予算がなく、政府からの補填もない状態が続いている・・・」、不動産会社では「給料の遅延や、無給でも解雇されないという状況がある・・・」、南部のベトナム系の輸出工場(縫製、靴、鞄、家具等)でコロナ後、大量の解雇(数万人)がありましたが、業界の人に聞くと、「実際の数字はもっと大きい…」、休日家族で行くショッピングモールでも、お客さんは入っていて、一見、にぎやかそうに見えるのですが、お店の店員から「以前は、定価でも購入する人はいたが、いまは、50%近い割引価格にならないと買わない人が多くなった…」と耳にすることが増えてきました。実際に、毎週家族で行くショッピングモールでは、閉まっているテナントが目に付くようになってきいます。表面的に、にぎやかでも、水面下で何か起きていると感じざるを得なかったのが、2024年だったと思います。 
 2025年の展望については、やはりベトナムの主要輸出市場の状況がキーになるのではないでしょうか。様々なメディアやシンクタンクの情報から、中国経済の悪化、アメリカ経済の二極化(中間層の消失、本当に言われているほど景気は良いのか)、日本のインフレによる物価上昇で苦しんでいるニュース、ヨーロッパでは、フォルクスワーゲンの国内工場閉鎖のニュースがあり、さらには、地政学的 
な不安定さ(ウクライナ戦争、中東の火種、東アジアの火種<中国、台湾、北朝鮮>、アメリカの新大統領の政策等)があり、外需に大きく依存しているベトナムの2025年の経済というのは、上記の輸出市場の状況に振り回されそうな気がします。

 

TRI-WALL VINA PACK COMPANY LIMITED
加藤寛明氏(General Director)

   2024年はTri-Wall Vina Pack にとって挑戦の年でした。環境への配慮から通い箱の需要が増加する中、強化段ボールに加え、合板、木材、プラスチック、金属など多様な素材を活用した輸出用梱包への対応を強化しました。また、取り扱う梱包消耗品や緩衝材の種類を増やし、より多様化するお客様のニーズに応えるワンストップサービスを提供するため、海外および地元のサプライヤーとの協力を強化しました。 
 ベトナム進出を目指す中国企業へのアプローチを強化し、香港本社や中国工場の支援を活用して新規顧客の開拓を進めています。また、北部、南部に加えて、これまで十分に対応できていなかった中部地域への市場開拓にも取り組みました。 
 2025年に向けては、これまで培った基盤をさらに強化し、お客様への改善提案を積極的に進め、要望に迅速に応えるチーム作りを進めてまいります。そのために、社員一人ひとりの能力を向上させ、自律性を高めるとともに、業務の量、 
幅、スピード、品質の向上を目指します。Tri-Wall Vina Pack は、全社員と各国拠点が協力して、多様化するお客様のニーズに応え続け、信頼されるパートナーとして成長し、持続可能な物流の実現に貢献してまいります。

 

FUJIFILM VIETNAM Co.,Ltd
杉田裕氏(Global Procurement Director)

    2023年12月に、富士フイルム製品全般を販売している現地法人会社(FUJIFILM VIETNAM) の一角に、「部品調達部門(Global Procurement Division)」を設立し、デジカメ、交換レンズ、インスタントカメラに搭載する部品をASEAN 諸国を対象に、製造できる可能性がある『部品サプライヤ様』を探索しております。出来るだけ早く、主要部品の製造国を、「現行の中国」から「ASEAN 諸国」に移管さ
せたいと考えております。
 ここベトナムホーチミンを活動拠点として、部品サプライヤ様を探索させていただいている対象国は、「ベトナムはじめASEAN 諸国(フィリピン、マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイ、ミャンマー、台湾 他)」となります。対象部品は、成形部品、プレス部品、切削部品、各種ダイキャスト部品、化成品、研磨レンズ、FPC、電池 他となります。デジカメ、交換レンズ、インスタントカメラの組立ては、ASEAN諸国に数か所、組立て工場をすでに設置しております。
 2024年は、『ASEAN 諸国の、部品サプライヤ様の探索活動』の初年度として、米国大統領選「もしトラ」を前提条件として、主にベトナムで、前述した部品類を対象に、部品サプライヤ様をご訪問させていただきました。日系の部品サプライヤ様の工場を中心に、200社程、視察させていただき、QCD 面(Quality、Cost、Delivery)の特徴を諸々、学ばせていただきました。また、ベトナムのローカルサプライヤ様を数十社、視察させていただき、「技術面の向上」に一生懸命努めている姿勢が伺えました。
 2025年は、次期米国大統領「トランプ氏」が打ち出す各種施策を念頭において、部品サプライヤ様の探索活動を、すでに昨年11月から本格的に開始しております。昨今、大国が打ち出す政治的な思想、経済的な政策が、「ものづくり」「製造業」にあからさまに大きな影響を与える世界情勢となっております。
 次期米国大統領「トランプ氏」の誕生、つまり、「米国の輸入関税の、異常なまでの税率アップ(特に、中国からの輸出品に対して)」の対策の一環として、『ASEAN 諸国の、部品サプライヤ様の探索活動、及び 発掘』を、2024年度よりもより一層加速していきます。
 課題の1つは、ベトナムはじめASEAN 諸国で、「現行の、中国に所在する中国サプライヤ」と同等のQCD 面(Quality、Cost、Delivery)が実現できるサプライヤ様を発掘させていただくことです。もう一つの課題は、有能なベトナム・ローカルサプライヤ様と協業させていただき、「QCD 面の向上」、特に、「技術面の向上」をご一緒に取組ませていただきたいと考えております。
 当方はまだまだ微力ですが、本活動を通じて、将来、ベトナムはじめASEAN 諸国の成長、発展の一助になれるように一生懸命頑張ってまいります。旧年と同様に、本年も皆さまのご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。

Emidas
シェア

今すぐ登録すると、さらに詳細な情報が閲覧できます。