市場調査 2024年01月28日23:39

ベトナムの電動バイク市場

電動化の過程において、ガソリンを動力源とする二輪車から電動バイクのようなグリーンエネルギーを使用する車両への移行は避けられない。世界第4位のバイク市場であるベトナムでは、この移行には多くの利点がある一方、困難や課題も少なくない。

ベトナムの電動バイク市場

ガソリンバイクの衰退

1970年代、バイクはベトナム社会で最も贅沢な品物のひとつだった。当時、ホンダ・スーパーカブ(Honda Super Cub)を所有することは、金と同じくらい価値があることだった。その後も長年にわたり、ホンダ・ノヴァダッシュ(Nova Dash)、ホンダ・NSR、ヤマハ・YSS、スズキ・RGV120、シムソン・S5(Simson S5)などの2ストロークバイクを所有することは、都市部の人々の誇りだった。

ベトナムのバイク市場を一変させたのは2002年、ホンダ・ウェーブ・アルファ(Wave Alpha)の登場だった。公務員の1年分の給与に相当する1,099万VNDの定価で発売されたウェーブ・アルファは瞬く間に国民的車種となり、徐々に一般家庭にも浸透していった。ホンダに続き、スズキ、ヤマハ、VMEP、力帆(Lifan)のバイクも毎年大幅に販売台数を伸ばした。高級バイク市場では、ホンダ・スペイシー(Spacy)、ピアジオ・リバティ(Liberty)、VMEP・アティラ(Atilla)などの輸入車が主流となった。

2010年以降、ベトナムのバイク市場はより明確に分化し始め、バイクの黄金時代を迎えた。都市部から農村部まで、ほとんどの世帯が少なくとも1台のバイクを所有するようになり、低所得労働者や学生向けの1,500万VND以下のギア付きのバイクや、4,000万~9,000万VNDの国産スクーターが市場を席巻した。高級バイク部門では、完全輸入のスクーターや、米国、英国、日本から輸入された大排気量のバイクが人気を博した。ベトナム人にとって、二輪車は本当に一般的な移動手段となった。

2018年、ベトナムのバイク市場は330万台以上という過去最高の販売台数を記録し、成長率は3.5%となった。この数字はベトナム二輪車協会(VAMM)加盟5社(ホンダベトナム、ピアジオベトナム、ベトナムスズキ、三陽工業ベトナム、ヤマハモーターベトナム)の販売台数のみで、大排気量バイクや輸入バイクは含まれていない。毎日平均して、ベトナム人はあらゆる種類のバイクを約9,000台購入していたことになる。当時、多くの専門家は、ベトナムのバイク市場は飽和状態にあり、今後数年間は成長する見込みがないと述べていた。

この見解は、新型コロナウイルスが流行した3年間で証明された。バイク市場の成長は鈍化し始め、販売台数は2019年に325万台、2020年に270万台、2021年に249万台と毎年減少した。2022年、コロナ禍は徐々に収束し、消費者の需要は回復したものの、バイクの販売台数は約300万台にとどまった。2023年上半期の累計では、VAMM加盟5社のバイク販売台数は前年同期比13.1%減の122万3,614台だった。ベトナムのバイク市場は通常、第3四半期、特に新学期前に、主に学生をターゲットとして大きく成長する。しかし、今年上半期のような落ち込みを見ると、バイク市場が2018年と同じ成長率を達成するのは難しいと言える。

2010年から2023年までの間、ベトナムのバイク市場は大手5社がほぼ独占してきた。そのうち日本メーカーはホンダ(市場シェア81%)、ヤマハ、スズキだ。

現在、消費者はバイクを単なる移動手段と考えており、もはや社会における階級や地位を証明する資産とは考えていない。毎年の新モデルもあまり変化がない。国内のバイク市場は、20年以上前のように質的な変化を遂げる時期に来ている。

電動バイクの登場

 進化の過程のように、従来のガソリンバイク市場も飽和状態に達すれば、衰退期を迎え、質が変化する。その一方、人口の増加とともに移動需要は今も増え続けている。それは、「より現代的で環境に優しい新しいタイプの乗り物」が時代のトレンドになるチャンスでもある。特に電動バイクはこのトレンドの有望な候補として挙げられる。

実際、電動バイクは2005年~2006年、ベトナムの都市部に登場して一部で人気を博し始めた。その後、中国の電動バイクが有名ブランドモデルを模倣したデザインでベトナム市場に参入した。比較的安価でスピードが速く、普通の自転車よりも利便性が高い電動バイクは、短期間で学生や主婦など多くの顧客を惹きつけた。

しかし、明確な方向性がなかったため、ベトナムの電動バイク市場はすぐに致命的な弱点を露呈した。

まず、2010年以前は、大手バイクメーカーがベトナムでの競争とシェア安定のために新モデルの開発に注力していた時期で、電動バイクの開発には取り組んでいなかった。そのため電動バイク市場では、中国からの製品、または100%輸入部品を使用した国内組み立てバイク(CKD)が主流だった。当時、ベトナム市場に出回っていた安価な中国製電動自転車や電動バイクの多くは品質が低く、バッテリーもわずか数年の使用で劣化する粗悪品だった。

次に、電動バイクを購入する顧客の大半は、第二の移動手段として利用しており、ガソリンバイクの代わりとして電動バイクを購入する顧客はごく少数であった。第二の移動手段という考え方から、ユーザーはコストを節約するために安い車種を選ぶ傾向があった。その上、部品交換の時期になると、多くの人が安物や出所不明のバッテリーや充電器を購入していた。これは電動バイクに関連した火災や爆発につながりやすい。

このように、ベトナムの電動バイク市場は“天の時、地の利、人の和”という3つの要素をすべて満たしてはいたが、本格的な普及にはまだ遠い状況であった。

そこに風穴を開けたのがベトナムのEVメーカー、ビンファストだ。同社が電動バイク分野に“侵入”して以来、市場は変わり始めている。2018年末、ビンファストはベトナム初の国産電動バイク「クララ(Klara)」を発売した。販売価格はベーシックモデルが3400万VND、プレミアムモデルが5700万VND。ボッシュ、日産、IRC、LGといった有名な部品サプライヤーの協力を得て誕生したクララは、電動バイクの品質と安全性に関する固定観念を変える契機となった。専門家によると、現在の技術では、品質、技術、安全基準を満たした電動バイクを2000万VND以下の価格で製造し、なおかつ利益を上げるのは難しいという。したがってビンファストの参入は、ライバルメーカーがより高品質の電動バイクを開発して市場に供給する動機付けに貢献することとなった。その後、Yadea(中国)はS3、S3 Pro、G5(2000万~3000万VND)、Pega(ベトナム)はGo-SとXMEN+(2500万VND)、Dibao(台湾)はSQ2、Pansy S3、Pansy S4、GoGo S5(2100万VND)を発売した。

電動バイクは科学技術の発展に関連する製品であり、この市場に参入するバイクメーカーは、各製品に常に最新の技術を取り入れようとしている。ほとんどの中級および高級電動バイクは、スマートLEDスクリーン、フルLEDライト、GPSナビゲーション、スマートキー、タイヤ空気圧センサー、ABSブレーキ、防水性など、自動車によく見られる機能を備えている。Yadeaの電動バイクは、テクノロジー・ファー・トゥルー・ファー(Technology Far True Far - TTFAR)技術を搭載している。同技術は移動時に発生する運動エネルギーから電気エネルギーに転換しバッテリーに回収できる。またビンファストのバイクは、新しいLFPバッテリー技術を搭載している。同社のEvo200モデルは1回の充電での最大走行距離は203kmだ。同社は、中核となるバッテリーセル技術を有する東南アジアで唯一の企業でもあり、これは市場における大きな競争優位性となっている。

電動バイクの現在の市場環境は、初めて電動バイクが登場した17年前とは異なる。ベトナム企業は市場シェアを獲得するために投資を増やしている。製品の種類は多様化し、品質とデザインもますます改善され、顧客の嗜好に応えている。各メーカーはベトナムの電動バイク市場の潜在成長力を明確に認識し、自社のビジネスの強みと優位性を最大化するために独自の戦略を打ち出している。

輸送・配送サービスが普及

 中国、シンガポール、タイ、インドネシアなどのアジア諸国では、多くの国内企業が従業員の日常的な移動や輸送サービスを電動バイクに完全に転換し始めている。電動バイクによる旅客輸送や配送サービスの発達は、電動バイクメーカーに長期的で安定した収益をもたらすだけでなく、個人ユーザーにも電動バイクを体験してもらう機会を作り出し、「環境に優しい」交通習慣を形成している。ベトナムも例外ではない。

ベトナムでは2022年9月、ビンファストと運送・配送会社アハムーブ(Ahamove)がベトナム初となる電動バイクを使ったテクノロジーベースの商品輸送サービス「AhaFast」を開始した。また、電動バイクの製造販売を手掛ける地場スタートアップ企業のセレックス・モーターズ(Selex Motors)は2022年11月末、「東南アジア初の電動ピックアップバイク」と紹介される電動バイク「Selex Camel」を発売した。同社はEC大手のラザダ・ベトナム(Lazada VN)と協力した。

ベトナムの電動バイク新興企業として、ダットバイク(Dat Bike)もこの分野での市場シェアの拡大を目指している。具体的には2023年5月、同社は配車サービス大手ゴジェック(Gojek)と協力協定を結び、ベトナムのユーザーの旅行、配達、フードデリバリーのニーズに応えるため、電動バイクの使用を試験的に開始した。同社のDat Bike Weaver++を使用することで、ドライバーはガソリン車と比較して燃料費を4倍以上削減でき、環境保護にも貢献できると宣伝されている。さらに2023年8月9日、ダットバイクはホーチミン市場を中心としたフードデリバリーの運営について、韓国系フードデリバリーサービスのベミン(Baemin)と協力合意に達した(2023年11月、ベミンはベトナム市場からの撤退を発表)。

他にも、ビングループの創業者ファム・ニャット・ブオン氏が設立したGSM(Green and Smart Mobility)は、電動バイクタクシーを2023年8月14日にハノイ市、9月29日にホーチミン市で開始した。使用されたバイクはビンファストのFeliz Sモデルで、販売価格は5000万VNDとなっている。

電動バイクの課題と展望

第一の、そして最も重要な課題は、国内企業に電動バイクの開発を奨励する適切な支援政策が現在のところ不十分であること。ガソリンバイクメーカーは部品の輸入税の引き下げ(ASEAN物品貿易協定に基づき)、付加価値税の支援、登録料の支援、裾野産業の発展支援といった多くの恩恵を受けている。

一方、電動の乗り物については、現在最も注目すべき支援政策は、特別消費税を最大12%まで軽減し、登録料を免除することであるが、純電気自動車にのみ適用され、バイクには適用されない。

ガソリンバイクの代わりに電動バイクを開発する企業を奨励するために、政府は早く具体的なロードマップと支援政策を示す必要があるという意見が多い。例えば、電動バイクを生産・組立する企業、EVバッテリーやEV用充電ステーションを開発する企業に対する税制や料金面での優遇措置や、バッテリー充電のための電気料金に対する優遇措置など。同時に、駐車料金の免除や減免、優先駐車場など、電動バイクの優先エリアを設定する必要がある。

消費者に対しては、電動バイクへの転換を支援する政策が必要となる。ホーチミン市交通運輸局によると、グリーンな燃料を利用する乗り物への転換は、ホーチミン市の開発に向けた特別なメカニズムや政策を試験的に実施することに関する決議(982023/QH15)の内容の一つである。同市は乗り物からの排出ガスの抑制を提案しており、そこにはガソリンバイクから電動バイクへの転換支援も含まれる。2023年9月に完成したこの提案は2023年第4四半期に発行され、2024年第1四半期に実施される予定だ。

第二の課題は、事業の内部要因にある。交通警察庁の統計によると、2022年末までの国内の電動バイク登録台数は約200万台で、シェアはバイク台数全体の2.7%だった。2022年の電動バイクの消費量は、2021年に比べて30~35%増加したが、それでも一般市場においては非常に小さな割合だ。この数字は、ほとんどのバイクメーカーが依然としてガソリン車の販売に注力していることを示している。

伝統的なバイクメーカーと組立業者の現地化率は95%以上に達している。業界にとって、それは大きな利点だ。そうした中、電動バイクの開発に資本を投じたり、あるいは完全に切り替えたりすることは、企業にとってリスキーな賭けになりかねない。開発、生産、営業のコストは何倍にもなり、市場での競争能力が減る。もうひとつの選択肢として、電動バイクへの段階的移行と並行してガソリンバイクの生産を維持するという方法もあるが、この場合も企業には多額の資本が必要となる。

第三の課題は、ユーザーの認識や習慣を変えることが難しいということだ。EVは徐々に普及しつつあるが、それはあくまで調査上の数字に過ぎない。環境に優しい乗り物への転換という戦略には多くの人が賛同を示しているが、具体的な行動には至っていない。主な理由は、電動バイクの価格が大多数の人々の所得水準に比べてまだ高いことだ。日常の主な移動手段としてバイクを利用する人にとって、バイクには高速走行、長距離走行、便利で簡単な給油が要求される。この条件を電動バイクに適用した場合、それを満たす製品はわずかで、価格もおそらく市場に出回っているスクーターに比べかなり高額になる(バッテリーを含まない価格)。さらに電動バイクは、通常充電で8~10時間、急速充電で4~6時間とフル充電に時間がかかる。一方、ガソリンバイクのガソリン充填には数分しかかからない。

現実は、政府が大きな調整や政策変更を行おうとするたびに、バイクがかなりデリケートなカテゴリーであることを証明している。古いバイクの取り扱い、バイクの環境保護料金の徴収、都心部へのバイク乗り入れ料金の徴収など、これまでのバイクに関する政策や規制の提案はほとんど国民からの消極的な反応に直面し、実際には実施不可能に至っている。

したがって、ユーザーがガソリンバイクから電動バイクへ転換するには、電動バイクの使用に対する優遇政策が必要であり、逆にガソリンバイクに対する圧力を高める必要がある。同時に、人々のコンセンサスを徐々に得るためのソフトな変化を伴う、明確なロードマップを示す必要がある。

ベトナムの電動バイク化の流れは必然的なものだが、現実的には常にチャンスとチャレンジの両輪で進むものである。この分野で先駆的な企業は、市場がブームの時期に入ったとき、間違いなく大きな競争上の優位性を持つだろう。より多くの電動バイクの製品が市場に出回れば、品質向上とコスト削減に貢献する。支援政策が迅速かつ魅力的に市場に注入されれば、今後数年間でベトナムの電動バイク市場に質的な変化をもたらすだろう。

文/株式会社NCネットワークベトナム ANH TRI
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