市場調査 2025年06月13日22:08

ベトナム裾野産業の未来 日本企業との協力で目指す新たな成長

ベトナム政府は、裾野産業を開発優先分野に位置づけ、2030年までに裾野産業の製品が国内生産と消費ニーズの70%を満たし、工業生産額の14%を占めることを目指している。また、国内の組立企業や多国籍企業に直接供給できる企業を約2,000社育成するという具体的な目標も掲げている。重点分野は、機械製造、自動車、電子機器、履物、繊維・衣料品、ハイテクの6つ。これらを軸に、ベトナムは産業基盤の強化と国際競争力の向上を図る。

ベトナム裾野産業の未来 日本企業との協力で目指す新たな成長

ベトナムの裾野産業の現状

 統計総局のデータによると、2022年末時点でベトナムの工業関連企業は約12万7,500社に上り、そのうち加工・製造業が約11万4,700社と全体の90%以上を占めている。一方で、ハイテク企業の割合は12.24%にとどまり、ローテク企業が全体の54.87%を占めるという現状も浮き彫りになっている。

ベトナムの製造業サプライチェーンでは、ティア2およびティア3に属するサプライヤーが圧倒的に多く、その大半を地場の中小企業が占めている。これらの企業は、主に低~中程度の付加価値を持つ部品やコンポーネントの生産を担っている。

ベトナムのハイテク製品の輸出は近年急成長し、2010年の13%から2020年には輸出総額の42%にまで拡大した。ただし、国内で生み出される付加価値は2020年時点で32%と低く、2010年の30%からわずかに増えた程度だ。これは、ハイテク製品の設計や生産を外国企業に依存し、ベトナムが組立と輸出を担う役割にとどまっているため、利益の大部分が外国企業に流れている現状を示している。

・部品製造セクター

ベトナムの部品製造セクターは、9億6,300万米ドルの生産付加価値を生み出し、2,200社以上の企業が機械設備の生産と輸出を支えている。このセクターは高付加価値活動と低付加価値活動の2つに分かれ、前者は外資系企業や国内大手企業がティア1部品メーカーから調達して行っている。一方、後者は2,000社以上の中小企業によって行われ、その多くは「低生産性の罠」に陥っている。

・電子セクター

電子セクターはベトナムの優先裾野産業の一つであり、急成長を遂げるとともに、輸出に大きく貢献している。この産業は経済成長を促進し、他の多くの産業にも波及効果をもたらしている。しかし、付加価値のほとんどは外国企業に依存しており、ベトナム企業は主に組み立てと加工を担当しているため、収益性が低く、持続的な発展には限界がある。現在、ベトナムの電子セクターは、中国、インドネシア、フィリピン、タイなどの周辺国と比較して、国内付加価値が相対的に低いのが実情である。

ベトナムの電子製品の生産と輸出を語る上で、サムスン電子の貢献は欠かせない。サムスンは2008年からベトナムでの製造と輸出における主要な投資家であり、タイグエン工場とバクニン工場は、世界最大の携帯電話生産拠点となり、グループ全体の携帯電話生産の約50%を占めている。高度な技術が求められるハイテクIT機器の生産において、サムスンはその大規模な生産量によって裾野産業のサプライヤーを引き付け、発展を支えてきた。2022年には28社のサプライヤーがサムスンと取引しており、その多くは北部に拠点を構えるサムスンの子会社や韓国系FDI企業であった。ベトナム企業は主に、サムスンベトナムのサプライチェーンにおけるティア2、ティア3のサプライヤーとなっている。

世界市場を目指し協力を強化

ベトナムの裾野産業は長年、OEM(相手先ブランドによる製造)に依存してきたが、企業はODM(相手先ブランドによる設計・生産)への移行を進めており、一部の先駆者はOBM(自社ブランドを持つ製造業者)の確立に向けて新たな成長機会を開拓している。

 ベトナムの裾野産業は進展しているものの、先進国との差は依然として大きい。このギャップを埋めるには、国際的なパートナーシップを強化する必要がある。現代のグローバル社会では、協力は単なるアウトソーシングにとどまらず、双方の強みを活かした戦略的なパートナーシップへと進化させるべきだ。外国企業の高度な技術やノウハウと、ベトナムの豊富で柔軟な労働力を組み合わせることで、双方は高品質な製品を生み出し、国際市場の需要を満たすことができる。

日本はベトナムの包括的な戦略的パートナーとして、自動車、電子、精密機械などの主要産業の発展に大きく貢献している。ベトナムの製造業は、日本政府の支援プログラムを通じて、技術力や管理能力、工場運営の向上を図る専門家チームのサポートを受けるとともに、日本企業との協力からも多くの恩恵を享受している。

現在、急成長している100%ベトナム資本の企業の多くは、在ベトナム日系企業との協力を通じて技術や品質を向上させてきた。経営者の中には、日本での学びや勤務経験を持つ者も多く、日越間のビジネスの架け橋として重要な役割を果たしている。日本企業は、ベトナムのサプライヤーと深い信頼関係を築きながら、技術指導や管理ノウハウの提供、そして技術移転を積極的に行い、その成長を支える不可欠なパートナーとなっている。ベトナム企業にとって、日本企業との協力関係は、成長と競争力を高めるための重要な要素であると位置づけられている。

ベトナム裾野産業協会(VASI)のデータによると、ベトナムの裾野産業企業が限界に直面し、協力と発展の機会を求めている分野は以下の通りである。

金型製造:プラスチック金型は安定した基盤を持ち、市場の需要に応えているものの、プレス金型や順送プレス用精密金型の生産能力はまだ限られている。

薄板プレスと電子、PCB加工:ベトナム企業が半導体サプライチェーンに参入するには、引き続き能力強化と大幅な改善が必要。

表面処理と熱処理: 現在、表面処理(静電塗装、メッキ)と熱処理を専門とする100%ベトナム資本の企業は少数で、これらの企業は主に中レベルの技術要求に対応している。複雑な注文や少量の注文はベトナム企業には依然として難しく、特にQCDSE(品質・原価・工期・安全・環境)の安定的な維持が難しいため、一部のプレス・機械加工企業は品質と納期を確保するため、自社で熱処理や表面処理システムを導入している。弊誌24年4月号の熱処理特集では、日本企業が熱処理市場で「高い複雑度」と「少量から中量」のセグメントに強みを持つことを指摘した。一方、電気・電子分野の大量注文では、台湾や韓国企業が多く参入し、競争が激化している。

米大統領選の結果による米中貿易摩擦の再燃、新たな自由貿易協定の締結、またベトナムのネットゼロ達成に向けた取り組みなど、変化する世界経済・政治情勢の中で、ベトナム企業と日本企業の新たなビジネス協力の機会が増えている。これらの協力関係は、単なるバイヤーと下請け業者の取引にとどまらず、世界市場を目指した生産提携へと発展させるべきだ。日本の技術力と高品質基準、ベトナムの豊富で柔軟な労働力の組み合わせが、両国企業の将来の成功を支える重要な要素となるだろう。

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