市場調査 2025年06月13日15:41

日越金型クラブ主催「第1回ベトナム金型グランプリ」が開催 最優秀賞にハノイ工科大プラスチック金型チーム

ベトナム国内にある金型関連の日系企業68社、ベトナム企業23社、合弁企業13社などで構成される業界親睦団体「日越金型クラブ」(真庭秀哉会長、2013年設立)。その第11回目となる「金型関連技術発表交流会」が2024年11月26日、ハノイ市にあるベトナム日本商工会議所の会議室で行われた。例年の交流会と異なるのは、技術発表に加えてベトナムの工業系大学に通う学生らを招いての「ベトナム金型グランプリ」の第1回大会が同時開催されたこと。総勢200人が参加しての盛会となった。

日越金型クラブ主催「第1回ベトナム金型グランプリ」が開催 最優秀賞にハノイ工科大プラスチック金型チーム

DX・AIの活用法も紹介

今回の交流会は2テーマ構成。第1テーマとして従来の技術発表交流会が、第2テーマとして競技形式の金型グランプリが位置付けられた。また、同じ内容を午前と午後の2回にわたって行い、午前中の第1部をベトナム語による発表、午後の第2部を日本語による発表にあて、夕方からは日系・ベトナム地場企業合同の懇親会も開催された。

このうち、第1テーマの演題は「DX(デジタルトランスフォーメーション)・AI(人工知能)を用いた金型製造」。工作機械・工具メーカー4社とソフトウエア会社1社の日系企業に所属する第一線級のエンジニアらが登壇し、講演を行った。

最前線の技術が紹介されたほか、金型製造におけるDX化がもたらす生産性向上などの効用などについても解説がなされ、切削加工中に発生する熱や振動をデジタル計測することによって問題解決を図る事例なども報告された。また、AIを用いることで作業動画から手順書を半自動生成する仕組みなども紹介され、DXやAI技術をどのように金型教育に活用できるかについても話題に上った。

学生3チームがプレゼン

 一方、第2テーマの金型グランプリには、地元ベトナムからハノイ工科大学機械学科プラスチック金型実験室、同大同学科プレス金型実験室、それに、LY THAI TO(リー・タイ・トー)短期大学機械学科の3チームの学生らが参加。あらかじめ課題として出されていたプラスチック製またはプレス製のコップをめぐって、多量生産する場合の金型製作の手順や注意点などがプレゼンテーションされた。

プレゼンの持ち時間は1チームあたり20分。金型製作におけるコスト、精度、量産性の3点を特に念頭に、金型仕様や図面、組立、重要パーツ、原価などについての説明が行われた。参加した学生らは緊張した面持ちをしながらも、最後まで成果を発揮しようと努めた。

発表後の審査には、交流会に集まった全ての企業関係者らが加わった。全体仕様(金型知識評価)、分割性(メンテナンスを考慮した設計か否か等)、品質性(形成不良を考慮した設計か否か等)、量産性(製造サイクルを考慮した設計か否か等)の4点から講評が行われた。さらに、アイディア性と各実験室における教育のあり方も加味され、各項目10段階評価で総合判定された。

結果は、ハノイ工科大学機械学科プラスチック金型実験室が初代最優秀賞(グランプリ)に選ばれ、学生らは実験室顧問のズイ室長らとともに喜びを分かち合った。夕方の懇親会前に開かれた閉会式では最優秀賞チームに対する表彰も行われた。

ベトナムでもグランプリ開催を

 今回、初めてとなるベトナム金型グランプリが開催された背景には、日越金型クラブのメンバーらが日頃から温めてきた考えがあった。「原材料の現地調達化と金型の国産化は産業発展の基礎。国際競争に打ち勝つためには避けて通れない道だ」。同クラブの副会長で、プラスチック金型設計製作「吉中精工」(福井市)とベトナム法人「Y.H SEIKO VIETNAM」の社長を兼務する吉中一夫氏はこう語る。ベトナムでの金型生産を底上げしたいという思いがあった。

ところが、経済成長著しいベトナムにあっても、政府や大学などの高等教育機関で耳目を集めるのはもっぱらDXやAIといった今をときめくデジタル技術ばかり。研究者や学生の人気も薄く、政府や大学からの予算措置も少なかった。「金型国産化の重要性を共通認識として高めていく以外にない」。そこで、同クラブの会長で群馬県安中市に本社を置く東邦工業のベトナム法人「TOHO VIETNAM」社長の真庭秀哉氏らが着目したのが、ベトナムでの「金型グランプリ」の開催だった。

日本の金型事業者らでつくる一般社団法人日本金型工業会が2009年から開催しているイベントに、「学生金型グランプリ」がある。全国の大学や高専などから金型を学ぶ学生を集め、技術の高さを競い合うという大会だ。「あらゆる産業の基礎である金型。そこにスポットライトを当てた催しがベトナムでも必要だ」。もう一人の副会長で名古屋市に本社を置く名古屋精密金型の現地法人「メイセイベトナム」社長の平原忠志氏は、グランプリ開催に至った経緯をこう説明する。

こうして開かれたのが、「ベトナム大学生たちの金型研究の今」と題した昨年11月の第1回グランプリだった。「学生への指導や機械類の使用を申し出てくれた会員企業もいれば、資金提供を表明したローカル企業もいた」と真庭会長。多くの協力を得て当日を迎えることとなった。

金型の国産化が大切

一国の工業化の成長進度を計る基準の一つに、工作機械や工具、原材料などの現地調達率がある。日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめた「2024年度海外進出日系企業実体調査」によれば、ベトナムのそれは36.6%。同様に工業化が進むタイの58.4%やインドネシアの49.3%と比べて、大きく後れを取っているのは歴然だ。外国企業の海外移転が進む中国でもなお67.1%を誇る。

ベトナムの数値は、工業化では下位にあるはずのマレーシアの38.5%やフィリピンの37.5%よりも低く、背後に続くのは南アジア・パキスタンの35.1%や内戦で揺れるミャンマーの30.8%などがあるだけ。明らかに国内調達においてベトナムが出遅れている現況が見て取れる。

こうした実情は金型クラブのメンバー間でも共有されているといい、危機感を持つ企業も近ごろは少しずつ増えているという。「グランプリを契機に、ベトナム政府にも金型の重要性の声が届くことを希望しています」と吉中副会長。日越金型クラブの挑戦は続く。

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