市場調査 2024年06月08日04:31

ベトナムの熱処理・表面処理業界

表面処理(めっき、塗装、研磨等)、熱処理は金属加工品の重要な工程で、さらに一部の製品に対し、耐久性や耐食性を高めるために不可欠な工程だと言われている。今回はベトナムにおける熱処理・表面処理について詳しく調べていく。

ベトナムの熱処理・表面処理業界

※本稿の作成にあたり、CNCTech様、Pro-Vision様、Oristar様、KDH様、Kai Metal Asia Co.,Ltd様、Nissin Electric Vietnam Co.,Ltd様、Hojitsu Vietnam Co., Ltd様にご協力をいただきました。

業界の概要 

ベトナムで行われている熱処理と表面処理の方法は様々だ。

熱処理については、基本的に焼きなまし、焼きならし、焼き入れ、焼き戻しの4種類があり、ベトナムではいずれも発注可能で、焼き入れが最もポピュラーである。

焼き入れは、大きく分けて全体焼き入れと表面焼き入れの2つに分けられる。

そのうち、表面焼き入れはベトナムできちんと対応できる熱処理業者が少なく、特に浸透層の深度に関して特定の要件がある発注に対処できる会社は限られる。公差が小さい(1mm以下)高度な表面焼き入れは日本企業でないと対応できず、そのため発注数は多くない。さらに、硬化層の深度を検査するための分析器を所有する会社は非常に少ない。

表面処理に関しては、ベトナム企業は塗装、めっき、研磨、研削など様々な方法に対応できる。

めっきに関しては、亜鉛めっき、ニッケルめっき、クロムめっき等があるが、小型工業部品のめっきに対応できる企業は多くない。

塗装に関しては、溶剤塗装と粉体塗装が一般的だ。最近、粉体塗装会社の数が増加している。

一般的には、一つの工法に特化した企業と、熱処理ラインまたは表面処理ラインを持つ加工会社、または両方を持つ加工会社に分かれる。

これらの企業の活動については、以下でさらに詳しく説明する。

企業活動の現状

ベトナムでは、熱処理と表面処理に従事する企業は2つのグループに分けられる。

第一は、主に自社のニーズを満たすために熱処理や表面処理を行う加工会社だ(うち、リソースの利用を最適化し、収入を増やすために外部からの受注を請け負うところもある)。これらの企業は通常、国有企業、外国直接投資(FDI)企業、少数のベトナム大手機械加工企業などの大企業である。

ほとんどの国有企業は、長年にわたって構造改革などを繰り返してきた老舗企業である。初期には設備投資も行われたが、技術革新はほとんど行われなかったため、時代遅れの技術となった。しかし近年、民営化の取り組みを進めるにつれて、国有企業は設備面でも品質管理面でも大きな変化を遂げている。国有企業は、インフラと豊富な資金力を活用し、現在でも業界内で比較的強い地位を維持している。

一方、外国直接投資(FDI)企業、特に日系企業は、通常、多額の初期費用を投じて最新の設備に包括的な投資を行う。

一部のベトナム企業も設備に積極的に投資しているが、しばしば資金難に直面している。

熱処理と表面処理工程を内製化するメリットについて言えば、品質管理が容易になり、外注費の削減にもつながることは明らかだ。しかし、設備や機械への初期投資は多額になるだろう。

さらに、生産ラインの効率的な稼働を確保するため、企業は従業員の訓練にも投資する必要がある。FDI企業は親会社から専門家が来て、体系的な研修プログラムを作業員に提供できる一方、国内企業は外部から専門家を招聘するために追加費用を支払うか、あるいは知っている者が知らない者に教える方法で自ら研修を行わなければならない。

第二に、熱処理や表面処理を専門とする企業がある。以前は、日本、台湾、中国など一部の外資系企業がこの分野をほぼ独占していた。当時、ベトナムの企業(ほとんどが資金力の乏しい中小企業)は、主に中国製の機械設備を使用しており、その技術やテクノロジーは時代遅れであることが多かった。そのため、より高度な技術や設備を持つFDI企業との競争は非常に困難であった。

しかし、過去5年間で、これらの分野で活動するベトナム企業の数は徐々に増加している。そのほとんどは、以前FDI企業で働いていた人材によって設立されている。創業者の実務経験があれば、企業のノウハウ面も確保できると考えられる。

しかし、設備面で最大の障害が残っている。日本製の設備に投資するのは非常にコストがかかるため、これらの企業のほとんどは、中国製の機械や設備、あるいは古い日本製の機械を使用することを選択する。中には、中国からコア部品を購入し、カバー部品はベトナムで製造するという設備を自分で製造する方法を選ぶ企業さえある。

弊誌の取材にこう答えた企業もある。「ベトナム企業には、注文に対応するための知識やノウハウがあっても、生産効率と製品品質を確保するための近代的な設備がない」。

生産管理の問題

 弊誌は、ベトナムの様々な熱処理・表面処理企業を訪問する中で、日系FDI企業が生産管理の面で明確な優位性を持っており、それが日系企業の優れた品質を確保するための重要な要素となっていることを明らかにしてきた。

熱処理と表面処理の工程は一般的に複数の段階に分かれ、製品の形状や材質によって異なる処理方法が必要になることもある。日本のFDI企業では、各工程が綿密かつ合理的に設計され、製品が最高の品質を達成できるよう入念に調整されている。

例えば、ある日本企業の粉体塗装ラインを訪問した際、表面洗浄や乾燥、塗装の各工程が、技術的要件や時間に関する具体的な指示とともに完全に実施され、生産ラインを最適化するとともに、品質を徹底的に管理しているのを目の当たりにした。

これに対し、ベトナムの中小企業の一部では、各工程の細かさや正確さに欠け、コストと時間を節約するために前処理の段階を省略することもある。

もうひとつの例は日本の熱処理会社で、様々な異なる部品を一度に炉へ入れたり、段階を飛ばしたりすることは受け入れられないようだ。これは日本の生産哲学を反映しており、各工程は完璧を目指すプロセスの不可分の一部と考えられている。しかし、ベトナムの企業では、小口の注文をまとめて一度に炉へ入れたり、納期に間に合わせるために段階を飛ばしたりすることがある。

こうした対照的な対応方法には、それぞれ長所と短所がある。日本のアプローチは品質を保証するが、コストが高くなり、納期も長くなる。逆に、ベトナムのアプローチはより柔軟で、品質要求は低いが納期を急ぐ注文に適しているようだ。

こうして、同じ業界でありながら、日本企業とベトナム企業の顧客ターゲットは全く異なると言える。同様に、ベトナムで熱処理と表面処理の発注を検討する場合、企業はより柔軟な発注方法を検討すべきである。品質要求の低い製品はベトナム企業に発注してコストと納期の節約ができ、高い品質を必要とする製品は日本のFDI企業に発注すべきである。

弊誌がバイヤーに強調したいもう一つの点は、一部のベトナム企業にはまだ定期的な機械設備のメンテナンスプロセスが欠けており、故障が発生した場合にのみ修理することが多いということである。そのため、設備の稼動が不安定になり、事故を引き起こしたり、生産効率を低下させたりして、納期を長引かせたりすることにもつながる。

チャレンジ

 以下は、ベトナムの熱処理・表面処理業界が直面しているいくつかの課題である。これらはこの業界だけの問題ではなく、ベトナムの製造業全般の問題とも言える。

第一に、各工場の場所の連携性がなく、加工工場と熱処理工場が離れている。

この原因の一つは、国と地方の計画および政策にある。工業団地は主に外国投資またはベトナムの大手企業の誘致を目的としており、国内の中小製造企業にとって工業団地の土地を長期間借りることはハードルが高い。

長い間、製造企業に対する工業用地の借地支援、財政や税制の支援は非常に限定されており、企業は“自力でなんとかする”ことを求められた。

従って、大多数の企業は、初期の段階では民間または小規模な工業区の土地を借りたり、買い取ったりして工場を建てた。ベトナムの裾野産業の工場はこのようにバラバラに点在するため、結果的に輸送費が上がり、納期が長くなる。

第二に、加工工程で使用される設備やほとんどの種類の原材料(化学薬品、溶剤、添加物など)を輸入に頼っていることが、ベトナムの様々な産業に携わる多くの企業にとって大きな課題となっている。

海外から原材料を輸入するには、輸入関税、国際輸送費、時には国際市場での原材料価格の変動などのコストがかかり、これらすべてが生産コストを上昇させる。

第三に、環境問題が懸念されている。

熱処理と表面処理の工程が環境に与える影響は大きい。熱処理では、高温と化学薬品を使用するため、煙や蒸気、有害なガスが環境に放出される。同様に、表面処理工程では化学薬品、溶剤、添加剤を使用するため、適切に取り扱わなければ有害物質が環境中に放出される可能性がある。

環境保護は、企業にとって責任であると同時に負担でもある。企業は運営中には環境保護対策や廃棄物処理にかかる費用を負担しなければならない。

さらに、環境保護やグリーン転換に関する最近の政府規制により、特にハノイやホーチミン市のような大都市では、これらの分野に関連する新規投資プロジェクトの許可取得がますます難しくなっている。

また、他部門で発生した大規模な公害事件を受けて、環境管理活動に対する監視も大幅に強化され、この業界の事業運営に一定の影響を及ぼしているだろう。

今後の展望

熱処理・表面処理は加工後の工程であるからして、この2つの業界の発展の可能性は、加工企業の拡大の展望に完全に依存すると言えるかもしれない。他方で、どの製品も高度な熱処理が必要なわけではない。

ベトナムのオートバイ市場は飽和状態であり、自動車業界の規模は小さく、機械設備製造業界(建設機械、農業機械等)は“足踏み状態”という状況下で、熱処理業界の国内市場の規模は、ここ数年ほぼ変化がない。

一方、表面処理業界は、ベトナムへの生産シフトの傾向により、発展のチャンスがあるかもしれない。しかし、環境保護に関する問題に留意すべきだ。

長期的には、高品質な熱処理・表面処理が必要な品目に対する市場ニーズが増加し、顧客体験も変化すると(価格優先から品質重視へ)、ベトナムの熱処理・表面処理業界はようやく活気づくかもしれない。

そして、グローバルサプライチェーンにおける日本企業とベトナム企業の役割を整理すること、例えばベトナム側は工場インフラを提供し、荒加工や量産を担当する、日本側は仕上げ加工と高品質な表面処理を担当するといったことは、国内の裾野産業の持続可能な発展に寄与するソリューションの一つになると思われる。

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