市場調査 2023年06月26日09:24

ベトナムの自動車産業(その2)急伸する地場企

工業化、近代化の過程において、自動車産業は経済界を牽引する産業の一つであり、国家の経済発展において重要な役割を担っている。ベトナムでも自動車産業は常に政府が関心を持ち、投資を奨励する分野だ。そのおかげで、ベトナムの自動車産業はここ数年で大きく発展し、国内の生産・組立量および現地調達率は増加した。しかし、チャンスがある一方で、ベトナムの自動車産業が直面している課題は少なくない。本記事ではベトナムの自動車産業について掘り下げる。(その2)

ベトナムの自動車産業(その2)急伸する地場企

ベトナムの自動車生産・組立

2022年のベトナムでの自動車組立数(設計ベース)は年間約75万5000台で、そのうちFDI企業が35%、国内企業が65%を占める。

自動車組み立て生産大手、チュオンハイ自動車(THACO)は、小型車のMorningから中型SUVのSorentoまで、起亜自動車(韓国)の一連のモデルをベトナムで生産、組立している“牽引役”の一つだ。近代的な組立ラインを擁するTHACOは日本のパートナーの要件も満たしており、ベトナム市場におけるマツダ車の組立と供給も行っている。また2022年12月、THACOはBMWの3シリーズ、5シリーズ、X3、X5モデルの生産開始を発表し、自動車業界に激震が走った。同社はプジョーの4車種(SUVの2008、3008、5008とミニバンのTraveller)の生産も続けている。THACOの現地調達率、特にトラックとバスの現地調達率はかなり高い。

韓国の現代自動車とベトナムの複合企業タインコン・グループの合弁企業であるヒュンダイ・タインコン・ベトナム(HTC)は、Grand i10、Accent、Elantra、Santa Fe、Tucsonといったベトナムで人気のあるモデルを生産している。HTCは2022年11月、北部ニンビン省のザンカウ工業団地で第2工場を本格稼働した。生産能力は年10万台で、第1工場と合わせた生産能力は年18万台となる。2023年にはHyundai Cretaの組立を追加する予定で、その後は注目モデルであるIONIQ 5を含む複数のEVモデルをベトナムで生産する計画だ。またタインコン・グループの自動車部門TCモーターは2022年10月、独フォルクスワーゲン傘下の自動車メーカーでチェコ最大手のシュコダ・オートと戦略提携したと発表。早ければ2023年から欧州生産モデルの販売を開始し、2024年中には北部クアンニン省に建設中のTCモーターの新工場でSUVのKUSHAQやセダンのSLAVIA等のシェコダ車のCKD生産を開始する計画だ。

2022年に注目されたもう一つの案件は、ベトナムで不動産開発などを手がけるゲレシムコ(GELEXIMCO)が、2023年に北部タイビン省のティエンハイ工業団地に自動車の製造・組み立て工場を建設する計画を明らかにしたことだ。総投資額は7兆ドンで2023年第1四半期から施工開始、工場完成と稼働開始は2024年第3四半期を予定している。稼働すれば、ベトナムで最大規模の自動車製造・組み立て工場の一つになる。

また2023年2月、トラックの生産販売を手掛ける地場メーカーのTMTモーターズは、米ゼネラル・モーターズ(GM)、中国自動車メーカー上海汽車(SAIC)と五菱汽 (Wulling Motors)の合弁会社であるSGMW(中国・上汽通用五菱汽車)とベトナムでの電気自動車(EV)の生産・組立・販売に関する戦略的提携を締結。SGMWが部品をTMTに供給することや、TMTがベトナムで独占的に五菱汽車のEVを組み立て生産・販売することなどで合意した。これらのEVモデルは北部フンイエン省にあるTMTの自動車工場で組み立てられ、年3万台の生産を見込む。

国際ブランドをみると、フォードは引き続き戦略車のRanger(ベトナムでの販売シェア60%超)、Territory、Transitの3モデルをハイズオン省の自社工場で組み立てている。ホンダはCityおよびCR—Vの2モデルをビンフック省の自社工場で組み立てている。トヨタは22年12月以降、人気モデルであるVeloz CrossとAvanza Premioを、完成車輸入から国内組立に切り替えると発表した。三菱は、販売上位車種であるOutlanderとXpanderの2モデルをビンズオン省の工場で組み立てている。

2023年の経済不況下での自動車産業

2022年に印象的な実績を残したにもかかわらず、ベトナム自動車産業が受ける国内外のマクロ経済の影響は甚大だ。複数の国際機関による予測では、2023年の世界的なGDP成長率は減退して2022年の数値にとどかず、平均して約2%となっている(IMFは2.7%、EUは2.5%、OECDは2.2%、フィッチ・レーティングスは1.4%と予測)。

計画投資省の中央経済管理研究所(CIEM)は、2023年のベトナム経済成長に関する2つのシナリオを提示した。第一のシナリオはGDP成長率6.47%、平均CPI4.08%、輸出成長7.21%、貿易黒字56.4億USDである。第二のシナリオはGDP成長率6.83%、平均CPI3.69%、輸出成長8.43%、貿易黒字81.5億USDである。この数値は2022年のGDP成長率(8.02%)に比べてはるかに低い数値となっている。
 2023年のCPIが4.5%を超えるリスクがある中で、消費者は自動車のような贅沢品の購入を控える傾向にある。CPIが高止まりすればこの傾向はより顕著になるだろう。

ベトナム自動車工業会(VAMA)の2023年1~3月期の報告によると、全国の自動車販売台数は7万392台で、2022年同期(9万506台)と比べて22.22%の減少となった。この流れを受けて、ベトナムが昨年の実績である販売数50万台超を維持することは難しいと不安視されている。

他方で、ベトナムの自動車市場は輸入車との熾烈な競争にもさらされている。特にタイ、インドネシアといった主にASEAN諸国から輸入される完成車との競争や、この先7~10年後にはCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)およびEVFTA(EU・ベトナム自由貿易協定)の加盟国からの輸入車との競争が待っている。

マクロ経済からの一般的な影響と並行して、国内の自動車産業にとって、自国市場の規模が小さく生産事業が拡大できないこと、低い現地調達率、高い自動車価格などが依然として障壁となっている。

商工省は、ベトナムの自動車価格はタイ、インドネシアといった周辺諸国に比べて2倍、米国、日本の3倍であると述べた。その主な原因は高額な税金と手数料、国内生産量が少ないことだ。また、企業側は部品生産企業との協力・連携関係の構築や専業化が図れず、大規模な原材料および部品サプライヤーのネットワークを形成できていない。

同じく商工省のデータによると、9人乗り乗用車の現地調達率はまだ目標値を達成していない。現地調達が可能な製品はチューブ、タイヤ、椅子、ミラー、ガラス、ワイヤーハーネス、バッテリー、樹脂製品などで、部品生産の主要原料である合金、アルミ合金、樹脂ペレット、工業用ゴムなどは8~9割を輸入に頼っている。金型用の材料もほとんどが輸入されている。毎年、企業が自動車生産、組立、修理、メンテナンスのために輸入する部品・パーツの総額は約50億USDに上る。

政府は「2025年までのベトナム自動車産業発展戦略及び2035年までのビジョン」の中で、自動車9万台、関連部品10億USDの輸出を目標に挙げている。しかし、短期的には2023年、中期的には2027年、長期的には2035年までの間に促進政策が打ち出されなければ、この達成は難しいだろう。

また、裾野産業企業の能力不足も重要な課題だ。金型メーカーは規模が小さく、または成長するための連携が不足している。自動車産業向けの粗鋼、鋳造部品の製造企業は少なく、不良率も高く、要件を満たすことができない。

次回では、現在のベトナム電気自動車産業の傾向と、自動車生産企業に対する政府の支援政策について引き続きご紹介する。

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>>ベトナムの自動車産業(その1)拡大する市場

文/株式会社NC ネットワークベトナム Anh Tri
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