工業化、近代化の過程において、自動車産業は経済界を牽引する産業の一つであり、国家の経済発展において重要な役割を担っている。ベトナムでも自動車産業は常に政府が関心を持ち、投資を奨励する分野だ。そのおかげで、ベトナムの自動車産業はここ数年で大きく発展し、国内の生産・組立量および現地調達率は増加した。しかし、チャンスがある一方で、ベトナムの自動車産業が直面している課題は少なくない。本記事ではベトナムの自動車産業について掘り下げる。
自動車産業の役割
自動車には大量かつ多種多様な部品が使われている。1台の自動車に使われる部品数は数万点とも言われ、大小さまざまな規模の会社によって製造されている。国際連合工業開発機関(UNIDO)によると、自動車は中・上級の技術レベルの工業グループに振り分けられている。ただし、構成部品は低・中級の技術(簡単なプラスチック成形品)から複雑な上級技術(トランスミッション、エンジン)まで、さまざまな技術ラインで生産されている。自動車産業が発展している国では、金属、機械、電子、化学品、プラスチック、ゴムなど、異なる工業分野の発展も喚起される。
その一方で、ベトナムの主要産業の一つである電子産業と比較すると、サプライチェーンの構造等において大きな違いが見受けられる。電子製品・部品は小さくて軽く、互換性がある場合もあるため、航空便を含む輸送費が大きな負担にはならない。そのため、各メーカーは世界規模のサプライチェーンを構築し、サプライチェーンに参入する各国のメリットを比較することが可能だ。ベトナムは労働力、土地に強みがあるため、労働集約型の工程をベトナムに置き、残りの部品は輸入することで、メリットを最大限に活かしつつサプライチェーンにおける労働分配の最適化を図ることができる。それとは逆に、自動車は大型で場所をとる部品が多く、輸送コストがかかるため、各メーカーは現地調達を進め、国内や周辺地域内でサプライチェーンを形成する傾向にある。市場が十分な規模である場合、自動車メーカーは現地調達率の向上と国内サプライヤーのネットワーク形成を図る。
自動車産業の発展は、大手メーカーのサプライチェーンへの参入により、さまざまな工業部門の発展、並びに裾野産業企業の発展に寄与すると言えるだろう。従って、自動車産業は、国民経済の工業化、近代化の過程に大きな影響を与える産業の一つなのだ。
2022年にブレイクスルーを迎えた市場
2010年~2014年のベトナムの自動車販売台数は、平均で年間12~15万台にとどまった。主なシェアはトヨタ、マツダ、起亜といった日本、韓国のブランドで占められた。しかし、2015年~2020年の販売台数は年間30万台に急上昇。国内生産・組立の自動車が消費者に好まれ、年間成長率15~20%に達するようになった。当時、多くの専門家は、ベトナムは市場規模という課題を解決しなければならないと語った。販売台数が少なくとも年間50万台に達すると同時に、年間3万台を販売できるブランドが現れた時に、ようやくベトナムに東南アジアの大規模な自動車市場となる本当の機会が訪れるのである。
周辺諸国を見回すと、国内市場がまだ小さかった頃、タイとインドネシアでは戦略車種を開発することで市場規模の拡大、サプライチェーンの形成、国内裾野産業の発展を図り、流れを変えることに成功した。しかしベトナムでは、産業開発戦略の構築過程において戦略車種についても議論されたが、決定には至らなかった。従って、ベトナムでは国内市場が未熟でありながら戦略車種の開発政策もなかったため、市場は各車種の間で小さく分かれてしまった。
新型コロナの出現により、世界中のあらゆる生産部門のサプライチェーンが寸断され、深刻な影響を受ける中、特に自動車産業はサプライチェーンが複雑で多岐にわたることから影響が大きく、ベトナムの自動車産業も未熟ゆえにこの影響を避けることはできなかった。新型コロナのような衝撃によるリスクを抑えるため、大手メーカーはより柔軟で持続性が高く、より耐久力のあるサプライチェーンの再構築を余儀なくされた。そのおかげで、ベトナムの自動車産業は回復の兆しをみせ、2022年の自動車産業の実績は希望が持てる結果となった。ベトナム自動車工業会(VAMA)、TCグループ、ビンファストが公表したデータによると、ベトナム全国の販売総数はこれまでで最多となる51万台超を記録した。長年存在していた市場規模のボトルネックが解消されたことで、ベトナムは東南アジアの大規模な自動車市場への“第一歩”を踏み出し、インドネシア、タイ、マレーシアといった自動車産業先進国との距離を少しずつ縮めている。
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