市場調査 2023年09月18日15:08

ベトナムの自動車産業(その4)政府の振興策

自動車産業は、業界発展を促進するために国から多くの優遇を受けている産業だ。

ベトナムの自動車産業(その4)政府の振興策

そのうちの一つが、2020年から財務省が展開している自動車裾野産業に対する税優遇プログラムである。これは、国内でまだ生産できない裾野産業製品の生産、加工(組立)のために輸入される材料、物資、部品について、輸入税が完全に免除される制度だ。この政策は、2021年11月15日付政令No. 101/2021/ND-CPの規定に従い、2027年まで適用される。適用対象は自動車部品の生産、加工(組立)を行う企業、自動車部品を自社で生産、加工(組立)する自動車メーカーである。企業が部品輸入税の免除を受けるには、全体の最低生産量および確約したモデルに関する個別の最低生産量の要件を満たす必要がある。 

この規定について、ベトナムに進出しているトヨタ、ホンダ、マツダ、起亜、現代、三菱といった有名メーカーは、少なくとも1モデルは優遇を受ける条件を満たしている。チュオンハイ自動車(THACO)やTMTモーターズ、ビンファストなどの大手製造・組立メーカーもこの免税政策から数千万米ドルを節約しており、多くの中小企業や関連企業もバリューチェーン内でメリットを享受している。

他方、ベトナムの特別消費税法では、環境にやさしい商品の生産と消費の刺激を目的として、同じ航続距離性能または座席数の内燃機関車に比べ電気自動車は低い税率が定められている。内燃機関車に対する特別消費税率は、車種と排気量によって15~150%となる。ガソリンの使用が70%以下であるハイブリッド車(HEV、PHEV)に対しては、同じ排気量のガソリン車に適用される税率の70%相当の特別消費税が課される。純粋な電気自動車(BEV、FCEV)に対する特別消費税は、9席以下の場合は15%、10~16席未満の場合は10%、16~24席の場合は5%、旅客兼貨物運搬車は10%となる。

2022年1月11日、第15期国会では、引き続き特別消費税法の一部条項を修正、補足する法律No. 03/2022/QH15が可決された。改正法では電気自動車に対する特別消費税率が下げられ、1~3%(2022年3月1日~2027年2月28日に適用)、および4~11%(2027年3月1日以降に適用)と規定された。

2022年1月15日、政府は政令No. 10/2022/ND-CPを公布。その中で、2022年3月1日から3年以内に初めて登録されるバッテリー走行の電気自動車に対する登記手数料は0%と規定された。その後2年間は、座席数が同じガソリン車の手数料の50%となる。2回目以降の登録について、登記手数料は全国一律で2%となり、電気自動車と内燃機関車の双方に適用される。

ベトナムの電気自動車産業に対する支援政策は、元々内燃機関車向けにあった規定、政策体系に基づいて構築、展開されているようにみえる。特別消費税と登記手数料の優遇があれば、国内消費者はEV購入時に一定の費用を節約することができるだろう。メーカーからみれば、優遇制度によって企業はEVの生産、組立への投資を強化できる。しかし、周辺地域や世界各国と比べると、ベトナムの政策はまだまだ“控えめ”だ。

現時点では、ベトナムの自動車市場はまだ“芽生えたばかり”、あるいは“発展途上”であり、環境配慮型の交通機関の利用において、タイやインドネシア、マレーシアのような周辺国には追いついていないかもしれない。しかし、ベトナムのEV市場は非常に大きな潜在性を秘めている。ハノイ工科大学機械工学校の自動車技術教育プログラムの長であるダム・ホアン・フック博士は、このように語る。

「ベトナムの自動車産業界は、内燃機関に忖度することはありません。我々は“失うものは何もない”という精神で電気自動車へ投資することができる。今がまさに、我々がこれを実現する絶好の時なのです」

>>ベトナムの自動車産業(その3)EV市場

※本稿の執筆にあたり、特に工業の専門家であるNguyen Thi Xuan Thuy氏のご協力に感謝申し上げます。

文/株式会社NCネットワークベトナム ANH TRI、HOANG GIANG
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