市場調査 2023年11月20日06:44

ベトナムの鋳造産業

ベトナムでは鋳造が成長産業となっており、新しい工場が次々と建設されている。設備や品質管理のレベルは年々上がっており、海外輸出を実現した企業も少なくない。その一方、原材料の輸入依存や国内インフラの未整備といった課題もある。発展途上にあるベトナムの鋳造産業について詳しくリポートする。

ベトナムの鋳造産業

重要産業のひとつ

ベトナムは鋳造が盛んな国だ。ずっと前から生き残ってきた装飾用銅製鋳物から生活・工業向けの鋳物まで、ベトナムにおける鋳造工場は数えきれないほど多い。鋳造もベトナムの重要産業だと言えよう。ベトナムの鋳造産業は現在までに、高品質かつ高精度の鋳物を生産するために近代的な技術に投資し、一定の発展を遂げてきた。一部のローカル企業は、重工業向けに良質の鋳物を生産できるようになったし、鋳造産業の輸入依存も大幅に減少した。

ただし、ベトナムの鋳造産業は、技術や生産規模の面において諸外国に比べ依然として遅れている。現状、鋳造企業は主に小規模な市場の需要に対応するために生産しており、近代的な設備やテクノロジーに投資する企業は多くない。こうした状況は、裾野産業が未発達であることに繋がっている。

ベトナムの鋳造産業は、ハイフォン(Hai Phong)、ハノイ(Ha Noi)、ビンフック (Vinh Phuc)、ドンナイ(Dong Nai)、タイグエン(Thai Nguyen)、ナムディン(Nam Dinh)、ホーチミン市(Ho Chi Minh City)、フンイェン (Hung Yen)、ハイズオン(Hai Duong)に集中しており、これら9つの地方の鋳物生産量は全国の約90%を占めている。

主要な鋳造法

主要な鋳造法について、ベトナムでは生砂鋳造、フラン型鋳造、ロストワックス、ロストフォーム、ダイカストが挙げられる。以下、各鋳造法について詳しく紹介する。

生砂鋳造、フラン型鋳造

生砂型鋳造はベトナムで最も普及してる鋳造方法であり、次に普及しているのはフラン砂型鋳造だ。砂型を作るために一般的に使用されている砂には、クアンニン(Quang Ninh)省バンハイ(Van Hai)の石英砂、クアンナム(Quang Nam)省ヌイタン(Nui Thanh)の砂、クアンビン(Quang Binh)省バドン(Ba Don)の砂、ハティン(Ha Tinh)省の砂などがある。石英砂は、採掘・加工後に主にガラス産業と建設用ガラスに使用され、残りは鋳造を含む他の産業に使用されている。

鋳造型の製造に使用されている粘土は、ハイズオン(Hai Duong)省のチュックトーン(Truc Thon)、タインホア(Thanh Hoa)省のコディン(Co Dinh)、ラムドン(Lam Dong)省のディリン(Di Linh)などの鉱山から開拓されている。鉛チョーク、ケイ酸ナトリウム、砂型塗料など他の材料は標準化されておらず、製造と供給に特化した企業は存在しない。そのため国内の鋳造企業はスムーズに購入することが困難になっており、中国、台湾、タイなどから輸入することが多い。

フラン樹脂に関しては、ベトナムは輸入に大きく依存している。主要な輸入市場は台湾だ。鋳造型用材料の需要は高まっているものの、国内供給が足りないため、鋳造企業は依然として輸入依存から抜け出せずにいる。

材質については、FC(150~300)、FCD(400~600)、SC各種、SUS各種、Hi-Mn、Cr鋳鉄など日本で必要とされる材質はほとんど鋳造可能だ。特に日本ではあまり作られなくなったCr鋳鉄はベトナムでポピュラーな材質である。

溶解には中周波電気炉、高周波電気炉が採用されている。日系企業は日本製電気炉(北芝電機、富士電機等)を使用し、ローカル企業のほとんどは中国製電気炉を使用している。最近は台湾製電気炉を導入するローカルの鋳造工場も増えている。「日本製の設備を導入したいが、価格の問題でまだ将来の夢だ」という話を複数のローカル企業の社長から聞いた。電気については、以前はよくあった停電、瞬間停電はほとんどなく、現在は安定的に提供されている。

鋳物村と呼ばれる地域に立地する数多くの地場企業(ほぼ中小零細企業)は月産100トン程度で、造型法については手動による鋳造型の製造や鋳造が依然として多い。一方、中規模または大手企業では、海外から輸入される近代的な設備・機械への投資が増えている。生砂鋳造はF1造型機が圧倒的に多いが、最近は高圧造型機(DISA)、静圧造型機(FCMX)などを導入する企業が増えてきている。自硬性はフラン造型法が主だが、最近はアルカリフェノール造型法も日系鋳造工場を中心に増えてきた。特に鋳鋼、アルミ、銅合金を鋳造している工場はアルカリフェノール造型法になっている。

タイグエン省にある鋳造工場と、砂型鋳造とフラン鋳造による鋳物(写真提供/Nam Ninh Casting Co.,Ltd)

ロストワックス・ロストフォーム

ベトナムでロストワックス、ロストフォームを手掛ける企業は日系、台湾系とローカル企業がメインとなっている。ロストフォームは日本ではFC、FCDがほとんどだが、ベトナムでは鋳鋼でも多く利用されている。ただ、発泡スチロールの品質が悪く、塗型も自社で作っている鋳造工場が多いので、不良が多いのが実情だ。現在では発泡スチロールもPPS樹脂を使用し、塗型も通気度が高く強度のある塗型を使う鋳造工場も出てきており、「日本品質」に近づいてきている。

ロストワックスについては、ホーチミン市にて台湾企業を中心に広く行われているが、最近は北部でも検討が始まっている。ワックスではなく3Dプリンターを使用し、小ロット品を鋳造する事を検討している企業もあるようだ。ロストワックスのローカル企業の担当者は次のように語った。

「ローカル企業は主に台湾製、中国製の設備を使っているが、日本製中古機械を導入する企業もある。生産設備や現場管理に注力しているローカル企業も多くなってきたので、良い品質のロストワックス製品の生産も実現できている。しかし、材料がほぼ輸入に依存しているので、価格面で中国製品と競合することが難しい」

ロストワックスの工場と製品(写真提供/VN-CAST Mechanical & Casting Co.,Ltd)

ダイカスト

ベトナムでは家電産業やバイク産業の発展に伴いダイカストを手掛ける企業がかなり増え、大手から零細企業まで様々な業者が活動している。主に台湾や日本などの外資系企業に集中しているが、近年はダイカスト鋳造の分野に参入するベトナム企業も増加しつつある。ただし、ベトナム企業の競争力はまだ高くはない。ベトナム企業が製造するダイカストの鋳物は質と量の両面において国内需要に応えられておらず、いまだ外国企業に依存せざるを得ない状況だ。ベトナム企業は今後、技術や人材のレベルを向上させていく必要がある。ダイカストを手掛けるローカル企業の担当者は次のように語る。

「ベトナムでやっているダイカストの材料は主にアルミ(ADC6、ADC12等)、亜鉛(ZDC2、ZDC3等)、マグネシウムだ。主な用途はバイク、家電製品、電子製品で、自動車部品を作れる企業も数社あるが、日系、台湾系に集中している。生産設備は台湾製の新規設備と日本製の新規・中古品だ。ローカル企業のダイカスト部品の品質もどんどん向上しており、ティア1またはティア2として外資系メーカーに納めている。ただ、ベトナム製のダイカスト製品の値段は中国製よりも高い。材料の輸入依存、国内インフラ(物流、環境処理等)の未整備、行政手続きの煩雑さ等が原因だと言われている。例として、アルミ材について、中国から輸入された材料は、品質は高くないが価格が安いため、品質要求の高くない製品なら中国製材料の方が採用されているようだ」

ダイカスト金型については、自社で製造するか、金型製作の専門会社に依頼するケースも多い。ベトナム企業が製造する金型は品質が良いと評価され、外国企業にも利用されている。また、地場企業の金型設計・製作能力を向上させるために、ベトナム商工省はサムスンと協力して2020年から金型産業用人材育成プロジェクトを展開している。樹脂成形金型、パンチング金型を中心に教育すると発表しており、多くの企業が数種類の金型を製造しているので、これによりダイカスト金型製作の品質向上につながるだろうと期待されている。

ダイカスト製品(写真提供/Thanh Cong Production and Trading JSC)

鋳造産業の課題

ベトナムの鋳造産業の課題は、以下の3つに集約される。

・原材料:砂以外、ベトナムの鋳物産業で使用される他のほとんどの原材料は、依然として輸入に大きく依存している。日本の鋳物会社では品質を確保するために、銑鉄、スクラップなどの原材料でさえ、ほぼ100%日本やタイから輸入している。ベトナム企業は台湾や中国から原材料を輸入することが多い。そのため現在、ベトナムの人件費は中国より安いが、鋳物の価格は中国よりまだ高い。弊誌がベトナムの鋳造企業を調査した際も、「価格面で中国と競争するのは非常に難しい」という意見を多くいただいた。従って現状、ベトナムで鋳物を調達しようとする場合は、安い鋳物を買いたいというよりチャイナ・プラスワンという考え方が必要かと思われる。

・技術能力:近年、近代的な機械や技術への積極的な投資により、ベトナム企業の鋳造技術レベルが向上していることは否定できない。多くの大手鋳造企業(主に国営企業)は外資系企業から信頼され、受注している。また、多くの企業がISO、JIS(日本)、DIN(ヨーロッパ)などの規格に準拠した製品を生産し、日本、韓国、カナダ、米国、EUなど国際市場に輸出している。一方、日本企業とベトナム企業を比較すると、日本企業の品質のほうが優れている。これは機械、原材料、人材など多くの要因によるものだ。ベトナムで鋳物を注文する場合、バイヤーは品質と価格のどちらを重視するかを明確に判断することをお勧めする。品質を重視するのであれば、日本企業(少量・高品質に対応)を選択すべきだ。安い価格を望むのであれば、ベトナム企業(大量・中低品質に対応)を選択して構わない。また、少数のベトナム企業は、設備や従業員数の優位性により、FDI企業の品質に近い鋳物を生産することができる。

・環境対策と安全性:鋳造工程では大量の粉塵や有害物質、廃水が発生し、環境や労働者に影響を与える。しかし、ベトナムの一部の鋳造企業では、この問題に十分な注意が払われていない。零細企業や鋳物村にあるほとんどの企業は、労働安全・衛生をあまり考えておらず、熱いため半ズボンや上半身裸で作業する姿がよく見られる。特に鋳物村では、環境と健康への有害な影響を十分に認識しているにも関わらず、変化に対する消極的な姿勢はなお強い。このような企業のほとんどは、古い技術や機械を使っているため、排出される廃棄物は非常に有害である。しかし、より近代的な設備に投資するための資金がないため、こうした状況が続いている。

今後の展望

現在の経済不況の中で、ほとんどの業種が多くの困難に直面している。鋳物産業も受注の減少、原材料価格の変動などに悩まされている。しかし、多くの企業が困難に直面し、生産を縮小せざるを得ない状況にある一方で、生産活動を維持している企業もある。これは多様な製品群と多様な産業からの顧客を持ち、安定した受注を維持している企業である。また、常に新製品を開発し、新たな市場に活路を求める企業も少なくない。

このように、現在の困難な時期は、企業にとって新たな潜在市場を開拓し、革新と改善を行うチャンスでもある。どのような時代であっても、製造業においては品質が最優先であることに変わりはないと私たちは信じている。自ら学び、チャンスをつかみ、品質へのこだわりを持ち続けることができる企業は、今後も成長し、成功し続けることだろう。

文 金森産業株式会社 高島毅 / 株式会社NCネットワークベトナム
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