今回はベトナムにおける生砂鋳造、フラン型鋳造について詳しく紹介する。
材料の一部は国内で調達可能
今回はベトナムにおける生砂鋳造、フラン型鋳造について詳しく紹介する。
ベトナムの鋳物の造型法には生型、自硬性、ロストフォーム、ロストワックスなどがある。その内、生砂型鋳造はベトナムで最も普及している鋳造方法であり、約70%を占めている。次いで普及しているのはフラン砂型鋳造である(15%)。砂型を作るために一般的に使用されている砂には、クアンニン(Quang Ninh)省バンハイ(Van Hai)の石英砂のほか、クアンナム(Quang Nam)省ヌイタン(Nui Thanh)、クアンビン(Quang Binh)省バドン(Ba Don)、ハティン(Ha Tinh)省の砂などがある。石英砂は、採掘・加工後に主にガラス産業と建設用ガラスに使用され、残りは鋳造を含む他の産業に使用されているようだ。
ベトナムで最も古い鋳造型用砂製造の工場の1つは、ヌイタン工場である。本工場は1995年、Vietnam Import – Export and Service Joint Stock Company(VICOSIMEX)によりクアンナム省ヌイタン地区に建設された。投資総額は500億ドン(約2億3,000万円)、年産能力は約10万トン。日本製の製造ラインを完備し、高品質な鋳造型用砂を製造している。しかし、砂の供給源が遠く離れており、輸送料金が高いため、北部の企業の生産コストを増加させるという欠点がある。
VICOSIMEXの砂製造工場は、他にもダナン(Da Nang)市の工場(生産能力:12万トン/年)、フエ(Hue)省の工場(生産能力:18.5万トン/年)がある。これら2つの工場で製造される砂は主にガラス産業に提供され、残りの一部は鋳造業界に供給される。
鋳造型の製造に使用されている粘土は、ハイズオン(Hai Duong)省のチュックトーン(Truc Thon)、タインホア(Thanh Hoa)省のコディン(Co Dinh)、ラムドン(Lam Dong)省のディリン(Di Linh)などの鉱山で採掘されている。鉛チョーク、ケイ酸ナトリウム、砂型塗料など他の材料は標準化されておらず、製造と供給に特化した企業がないため、国内の鋳造企業は中国、台湾、タイなどから輸入せざるを得ず、このことが調達の大きなハードルとなっている。
フラン樹脂も主に台湾からの輸入に頼っている。鋳造型用材料の需要は高まっているが、国内の供給が足りないため、鋳造企業は未だ輸入材料に大きく依存している。
製造できる鋳物の種類は豊富
ベトナムで作られている鋳物は以下の通り。
- 材質 FC(150~300)、FCD(400~600)、SC各種、SUS各種、Hi-Mn、Cr鋳鉄等、日本で必要とされる材質はほとんど鋳造可能。特に日本ではあまり作られなくなったCr鋳鉄はベトナムでポピュラーな材質である。
- 溶解 中周波電気炉、高周波電気炉が採用されている。日系企業は日本製電気炉(北芝電機、富士電機等)を、ローカルのほとんどは中国製電気炉を使用している。最近は台湾製電気炉を導入するローカルの鋳造工場も増えている。日本製設備を導入したいが、価格が高く、まだ将来の夢だと数社の社長から聞いた。以前はよくあった停電、瞬間停電はほとんどなくなり、電気は安定的に提供されている。
- 造型法 鋳物村と呼ばれる地域に立地する数多くの地場企業(ほぼ零細企業、中小企業)は月産100トン程度で、手動による鋳造型の製造や鋳造は依然として多い。一方、中規模または大手企業では、海外から輸入される近代的な設備・機械への投資が増えている。生砂鋳造はF1造型機が圧倒的に多いが、最近は高圧造型機(DISA)、静圧造型機(FCMX)などを導入する企業が増えてきている。自硬性はフラン造型法が主だが、最近はアルカリフェノール造型法も日系鋳造工場を中心に増えてきた。特に鋳鋼、アルミ、銅合金を鋳造している工場はアルカリフェノール造型法になっている。
Song Cong Diesel Limited Company(DISOCO)、Hanoi Mechanical Company Limited(HAMECO)、Dong Anh Licogi Mechanical Joint Stock Company、Thai Nguyen Casting Joint Stock Company、Vietnam Engine and Agricultural Machinery Corporation-Joint Stock Company(VEAM)等、この数年、造型設備に投資した数社の事例が挙げられる。
ローカル工場の課題
最近、国内企業は徐々にISO、JIS(日本)、DIN(ヨーロッパ)などの国際規格に準拠した鋳物を生産できるようになってきた。さらに、多くの企業が日本、韓国、カナダ、米国、EUなどの海外市場にも輸出している。これらの企業の主な製品は、マンホールカバー、ギアボックス、エンジンなどである。
一方で、一般のローカル鋳造工場にはCEメーターすら持っていない所も多い。零細企業、特に鋳物村にあるほとんどの企業は労働安全・衛生をあまり考えていない。暑いからか、半ズボンや上半身裸で作業する姿がよく見られる。また注文する際、「考え方の違い」によるトラブルも多いようだ。鋳物村や昔の国営企業の出身者は長らく使ってきた技術にこだわり、社外の人からやり方を教わるのを好まない。これまで問題なく鋳物を作ってきたという自負があるようだ。
鋳物の価格も課題となっている。ベトナムの平均賃金は3.5万円/月のため、鋳物も安いと思う人が多い。ベトナム国内で使用される鋳物については、ベトナム産の銑鉄、産合金鉄、ベントナイトなどを使用しているので確かに価格は安いと思われる。実際、FC150で1㎏110~120円という工場もたくさんある。
しかし「日本品質、海外品質」に対応した鋳物の場合、国内調達できる原材料はなく、ほぼ輸入品だ。そのため材料費がかさんで低価格の鋳物を提供できず、時には中国価格よりも高い場合がある。
現状、ベトナムで日本品質の鋳物を調達しようとする場合は、安い鋳物を買いたいというよりチャイナプラスワンという考え方が必要だと思われる。
文 金森産業株式会社 高島毅/株式会社NCネットワークベトナム