市場調査 2023年11月08日02:11

脱炭素を巡るベトナムの動向~温室効果ガス排出削減への取組みと製造業への影響~

気候変動がますます顕著になり、環境汚染による重圧がますます厳しくなる中、温室効果ガスの排出削減は世界の国々にとって最優先事項の一つとなっている。ベトナムは急速に成長している新興国の一つとして、この競争に入り込もうと努力している。

脱炭素を巡るベトナムの動向~温室効果ガス排出削減への取組みと製造業への影響~

ベトナム政府は排出削減目標の達成に向けて厳格に取り組んでおり、国内企業、特に製造業への圧力は決して小さくない。世界で脱炭素化が進む今、ベトナムの企業は自社および社会の持続可能な発展を保持しながらこの課題にどう向き合っているのか。その動向をリポートする。

世界はグリーン経済へ

何十年もの間、世界の多くの国は、社会問題、環境悪化、天然資源の減少を無視し、化石エネルギー源に基づく経済、即ち“ブラウン経済”を追求してきた。この考え方によって環境は大きな損害を被り、CO2(二酸化炭素)、SO2(二酸化硫黄)、CH4(メタン)といった温室効果ガスの排出量が増加し、地球規模で気候変動が発生している。

2008年の金融危機以来、経済の課題だけでなく環境問題の解決も急務となったことから、“グリーン経済”という概念が広まり始め、世界中の国で不可避のトレンドとなっている。国連環境計画(UNEP)によると、“グリーン経済”は炭素排出量が低く、資源を効率的に使用し、社会的包摂力を持った経済として理解される。

パリ協定では、気候変動による最悪の影響を回避するために、平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃未満に抑えることを目標とし、1.5℃に抑える努力を続けることを決めている。世界190か国以上が参加するパリ協定は、環境保護と持続可能な開発の維持における協力の必要性について、世界規模でのビジョンを示している。国連によると、パリ協定の目標を達成するには、世界の排出量を2030年までに45%削減し、2050年までにネットゼロ(温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとり正味の排出量をゼロにすること)を達成する必要がある。

現在、世界中の国が排出量を削減し、気候変動への対応に尽力している。例えば、EUは2030年までに温室効果ガス排出量を少なくとも55%削減し、2050年までに気候中立(カーボンニュートラル)地域になるという目標を設定している。さらにEUは、世界で最初に輸入品に対する炭素税(CBAM:炭素国境調整メカニズム)を導入した。米国は、2030年までに温室効果ガスを2005年比で50~52%以上削減し、2050年までにネットゼロ経済を目指すという目標を掲げている。また、中国もGDP当たりの温室効果ガス排出量を2030年までに2005年比で60~65%削減することを目標としている。

これらの目標と取り組みは、現在世界で起きていることの一部にすぎない。各国は排出量を削減し、気候変動に関する世界的な目標に貢献するために、さまざまな対策や政策を導入している。

ベトナムの政策

 ベトナムでもグリーン経済の構築を目指す政府が排出削減プロセスの推進に厳しく取り組んでいる。2050年までの気候変動に関する国家戦略の決定No.896/QD-TTgでは、「気候変動に適応しつつ排出量ゼロ目標を実施することは、持続可能な開発のチャンスである。開発政策における最優先事項として、すべての省庁、産業、企業、国民に最高の倫理基準が求められる」というベトナムの立場を明確に述べている。この戦略の承認により、排出量の削減と気候変動への対応におけるベトナムの取り組みが示された。これによると、温室効果ガス排出量削減目標は次のように設定されている。

・2030年までに国の温室効果ガス総排出量をBAU比43.5%削減すること(BAU=Business as Usual:現状から追加的な対策を見込まないまま推移した場合の温室効果ガス排出量のことを指す)。

・排出量のピークは2035年で、その後急減させること。

・2050年までに国の温室効果ガス総排出量の実質ゼロを達成すること。

決定No.896/QD-TTgでは、企業の温室効果ガス排出量を次のようにインベントリ管理する義務も設定されている。

・2022年以降、年間排出量(炭素換算)3,000トン以上の施設に対し、温室効果ガスのインベントリ管理と排出量削減を実施する。

・2030年以降、年間排出量2,000トン以上の施設に対し、温室効果ガスのインベントリ管理と排出量削減を実施する。

・2040年以降、年間排出量500トン以上の施設、2050年以降、年間排出量200トン以上の施設に対して同様の管理を実施する。

また政府は2022年に、温室効果ガス排出量の削減、オゾン層の保護、炭素市場開発の詳細を規定する政令No.06/2022/ND-CPを発行した。この政令は、気候変動に対するベトナムの懸念を示し、悪影響を最小限に抑えるための具体的な方向性を確定したものだ。炭素市場の開発に関して、政令No.06では次のようなロードマップが規定されている。

1.2027年末まで

a)カーボンクレジット管理、温室効果ガス排出枠とカーボンクレジットの交換に関する規定の作成。カーボンクレジット取引所の運営に関する規定の作成。

b)潜在分野におけるカーボンクレジット交換およびカーボンオフセット体制の試験実施。ベトナムが加盟している国際法および条約の規定に則った、国内外のカーボンクレジット交換およびカーボンオフセット体制の実施指導。

c)2025年以降のカーボンクレジット取引所の設立と試験運用。

d)炭素市場開発についての能力強化活動と意識向上。

2.2028年以降

a)2028年にカーボンクレジット取引所の正式な稼働。

b)国内のカーボンクレジットと周辺地域・世界の炭素市場とのマッチング、交換の規定。

企業の現状と課題

 現在、ベトナムの裾野産業企業の大半は年間総売上が2000億VND(約12億円)以下の中小企業だ。ほとんどの企業は先進国に比べて30年以上も遅れており、依然として古い機械や技術を利用し、大量のエネルギーを消費しているほか、廃棄物の処理が未整備であり、環境汚染を引き起こしている。多くの工場や企業は廃棄物処理システムに投資しておらず、生産の燃料として化石燃料を使用している。このプロセスでは、CO2(二酸化炭素)、CO(一酸化炭素)、NO(一酸化窒素)、SO2(二酸化硫黄)などのガスが生成され、深刻な大気汚染を引き起こし、さらには温室効果を生んでいる。グリーン開発モデルを備えたFDI企業であっても、ハイテク率はまだ非常に低い。外国投資企業協会(VAFIE)の報告書によると、FDI企業のうち先端技術を導入している企業は僅か5%にとどまり、15%の企業が平均的な技術、80%の企業が時代遅れの技術を使っている。

統計総局の報告書によると、現在、全国の裾野産業企業の30%以上が手動の機械を使用している。半自動機を使用している企業は50%以上、自動化装置を使用している企業は10%、生産ラインでロボットを使用している企業は10%未満である。実際のところ、効果的なエネルギー使用ソリューションを真に認識して導入しているのは、数少ないハイテク生産ラインを使用している企業だけだ。

排出量削減は世界的にもベトナムでもますます強い傾向になっており、企業への影響も明確になりつつある。International Logistics Corporation(InterLOG)とベトナム産業支援連盟(VISA)が製造業134社を対象に実施した「工業界におけるグリーン転換の必要性」調査では、排出削減トレンドとネットゼロ政策が及ぼす影響に対する企業の見解が部分的に反映されている。企業は重要なコメントを提供し、厳格な基準の順守を求める圧力によって市場での競争力が低下するリスクを強調した。彼らはまた、外国の取引先が排出削減基準の順守を要求した場合、輸出注文が減少するリスクにも言及している。さらに、炭素排出税や手数料による投資家の吸引力の低下やコストの増加も、企業にとって重大な課題であると考えられている。

これらは、企業が環境だけでなく自社の国際市場における持続可能性を守るために、排出量削減のための措置を迅速に講じる必要があることを示している。しかし、同調査からわかるように、ネットゼロ目標を達成し、グリーン転換を実行する過程で企業がしばしば遭遇する困難と障壁が非常に大きなことは明らかだ。これらには、法制度が未だに曖昧で具体的な指針が欠如しているという事のほかに、インベントリ測定、生産プロセスの変更、技術の転換にかかるコストが含まれる。

※調査の詳細結果はこちら

緑豊かな未来を目指して

 気候変動と環境保護の課題に取り組む中で、排出源を理解し、適切に測定する能力は非常に重要だ。英国規格協会(BSI)持続可能開発部長のチュオン・ビン・カン氏によると、排出削減対策が実行可能で成果をもたらすかどうかは、企業内の排出源を正しく特定できるかどうかにかかっているという。企業は、どのような排出源があるのか、企業がそれを管理できるのか、どの程度排出しているのか、企業内や各製品の総排出量に占める割合などを明らかにする必要がある。

長年にわたって環境はひどく破壊され、人類による環境保護の取り組みは未だに微々たるもののようにみえる。今日、温室効果ガスの排出削減は世界的に急務となっており、企業を含む社会全体の協力が求められている。中小企業にとってこれは簡単なことではないだろうが、人々の思考の転換から最新設備の投資に至るまで、体系的かつ同期的な研究と投資のプロセスが必要だ。

一方で、排出量削減に成功すれば、環境の持続可能性が担保されるだけでなく、魅力に溢れる一連の新しいビジネスチャンスも開かれる。企業自身は、生産プロセスの最適化、エネルギー使用効率の向上、エネルギー、原材料、環境管理に関連するコストの削減など、多くの重要なメリットを享受できる。これにより、企業の競争力向上のみならず、事業戦略の改善や企業の方向性の再構築を図り、持続可能で豊かな未来を目指して、グリーン転換へ積極的に参加することができるようになるのだ。

文/株式会社NCネットワークベトナム ANH TRI、HOANG GIANG
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