専門家コラム 2025年06月13日15:28

ベトナムビジネスの基礎知識(第49回)雇用契約終了時の注意事項(5)

雇用契約の終了時における注意事項についての解説の続きです。今回が最終回となりますが、被雇用者による一方的な雇用契約の解除などについて解説します。

ベトナムビジネスの基礎知識(第49回)雇用契約終了時の注意事項(5)

Ⅸ.被雇用者が雇用契約を一方的に解除する場合

(1) これについては、以下の二つの事例があります(労働法第35条)。

1. 無期限あるいは有期限の雇用契約を締結している、又は12ヶ月未満の季節業務契約などを締結している被雇用者は、以下の場合は事前通知不要で雇用契約を一方的に解除する権利を有します。

(a)雇用契約書で合意した業務や勤務地に配属されない。または勤務条件が保証されない。

(b)雇用契約書の規定に基づく給与が支払われない。あるいは遅配となる。

(c)職場でセクハラに遭う。

(d)規定に基づく定年になった。

(e)妊娠中の被雇用者が、認可を受けている医療機関の指示に基づき休暇を取得する。

(f)雇用者が被雇用者に対して、業務・勤務地・勤務条件・就労時間・休憩時間・労働安全衛生・賃金などについて、情報を誠実に提供しない。

(g)雇用者が虐待、殴打、侮辱的言動、健康、人格、名誉に悪影響を与える行為をする、強制労働させる。

2. 上記の場合を除き、無期限あるいは有期限の雇用契約を締結している、又 は12ヶ月未満の季節業務契約などを締結している被雇用者の場合、事前通知の期限が以下の通りです、

(a)無期限の雇用契約では少なくても45日前、(b)12ヶ月~36ヶ月の有期の雇用契約では少なくても30日前、(c)12ヶ月未満の有期限の雇用契約では少なくても3営業日前転職を理由に契約解除を通知されれば、雇用者としては受理する以外ないので、有能で不可欠な人材には、好条件を与える事が必要になります。

(2) 上記2つの事例における退職金、残存する有給休暇の清算などは、一般的な雇用契約終了時の場合と同様です。

(3) 上記にある事前通知の期間が守られなかった場合。違法な一方的雇用契約の解除となり、法規に基づき被雇用者へは以下の罰則が適用されます。

(a)退職金を受給できない(同法第40条1項)。

(b)事前通知期間の遅れた日数に基づき、給与に応じた賠償金を雇用者に支払う(同条2項)。

(c)トレーニング費用の弁済を雇用者に行う(同条3項)。ただし、雇用者がこの弁済を受けるためには、労働法第62条に記載のある内容を盛り込んだ契約書をが締結されている場合のみです。実際に被雇用者が、トレーニング(海外での場合も含む。)の終了後すぐに退職を申し出て、トラブルとなるケースは少なくありません。その予防策として雇用者は、労働法第62条に基づく契約をトレーニング前に締結する事が絶対必要です。

Ⅹ.法人・駐在員事務所・支店の閉鎖による雇用契約の終了

(1) 失業手当は失業保険基金からの支払いとなります。雇用者にその支払い義務が発生するのは、失業保険料の未納期間に対してのみです。この支払いが生じた場合の金額は、法規に基づき通常の雇用契約の終了時と同様になります(同法第46、47条1項、2項)。

(2) 現地法人の支店・駐在員事務所の閉鎖が実施される場合も、上記と同様となります。

(3) ただし実務において、閉鎖手続きを円滑に進めるためには、被雇用者の同意を得る事が重要ですので、法規上の義務はなくても、一般的には被雇用者の1~3ヶ月分賃金相当額の一時金を、雇用者は支払います。

文/斉藤雄久(さいとうたかひさ)  

東京都葛飾区出身、 早稲田大学社会科学部卒。 1994年12月のハノイ大学 への留学以降、 ベトナム在住は25年以上となる。 現在 AIC Vietnam Co.,Ltd. の President。当地での豊富なビジネス経験に基づく独自の観点から、法規に 基づく最も実務的なアドバイス業務を実践するほか、 国内外での講演も多数。 

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