専門家コラム 2025年01月03日14:31

ベトナムビジネスの基礎知識(第48回)雇用契約終了時の注意事項(4)

雇用契約書終了時における注意事項の続きで、今回は雇用者による一方的な雇用契約の解除などについてです。

ベトナムビジネスの基礎知識(第48回)雇用契約終了時の注意事項(4)

Ⅶ.雇用者による一方的な雇用契約の解除(以下では一方的解除)

(1)一方的解除が可能な主要事例は以下の通りです。(労働法第36条1項)。

 (a)被雇用者が、雇用契約書にある業務を常に完遂せず、それを雇用者作成の業務完遂評価基準で確定できる。

 (b)被雇用者が疾病・事故で、無期限契約では連続12ケ月、12~36ヶ月の有期限契約では6ヶ月、12ヶ月未満の有期限契約では、契約期間の1/2を超える期間で治療を受けたが、回復できない。

 (c)天災・火災・危険な疫病、国家機関の要求による拠点の移転、経営縮小により、雇用者があらゆる措置を講じたが、人員の削減を行う。

 (d)被雇用者が正当な理由なく、5営業日以上連続で無断欠勤した。

 (e)雇用契約締結時に、被雇用者が正確な情報を提供せず、それが雇用に影響する。

 (f)被雇用者が規定の定年に達した。

(2)上記(a)の実施には、業務遂行の評価基準を作成し、被雇用者(職場の労働組合)の合意を得ている事が前提です。

(3)上記の(a)(b)(c)(e)(f)の場合、無期限の契約では遅くとも45日前、12~36ヶ月の有期限の契約では遅くとも30日前、12ヶ月未満の期間の有期限契約、および上記(b)の場合では遅くとも3営業日前までに、雇用者は事前通知が必要です。

(4)上記(d)の場合には事前通知は不要で、即時に実施できます。

(5)この一方的解除は、雇用者都合による退職扱いとはなりません。被雇用者が失業保険に12ヶ月以上加入している場合、失業保険基金から退職手当が支給されます(雇用法第49条2項)。雇用者の退職手当の支払義務が生じるのは、失業保険料の未納期間がある場合のみです(同法第46条1、2項)。

Ⅷ.経済的理由などによる雇用契約の解除

(1)これらは一方的な契約解除ではありませんが、契約解除が認められる事例として、下記の3つの理由があります(同法第42条、第43条)。

 (a)組織構成の変更・労働の再編成、雇用者の業種・職種に関係する工程・技術・設備などの変更、製品やその構造の変更

 (b)経済的恐慌・低迷、経済再編時における国家の政策、法令の施行、国際条約の施行

 (c)企業の合併・吸収・分割、企業の売却・賃貸・企業形態の転換、企業の財産の所有権・使用権の譲渡など

(2)上記の(a)(b)の場合、雇用者は契約解除のためには、職場の労働組合と意見交換し、被雇用者の退職30日前までに、省レベルの人民委員会と被雇用者に通知する必要があります(同法第42条6項)。

(3)これら3つの事例は、雇用者都合による退職扱いとなり、被雇用者には失業手当が支給されます。ただし、被雇用者が失業保険に12ヶ月以上加入している場合、失業保険基金から失業手当が支給されます(雇用法第49条2項)。雇用者に失業手当の支払義務が生じるのは、失業保険料の未納期間に対してのみです(同法第47条1、2項)。

(4)雇用者に法規上の義務はありませんが、被雇用者に対して賃金1~2ヶ月分相当の一時金を支給する事例が一般的なようです。一時金を支給しない場合、被雇用者が退職に同意しなかったり、労使協議の長期化、労働争議の発生などのリスクが懸念されます。 

文/斉藤雄久(さいとうたかひさ)  

東京都葛飾区出身、 早稲田大学社会科学部卒。 1994年12月のハノイ大学 への留学以降、 ベトナム在住は25年以上となる。 現在 AIC Vietnam Co.,Ltd. の President。当地での豊富なビジネス経験に基づく独自の観点から、法規に 基づく最も実務的なアドバイス業務を実践するほか、 国内外での講演も多数。    

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