前回に引き続き、雇用契約書の終了時において、雇用者が注意すべき事項について解説します。

Ⅲ.社会保険手帳の返却
(1)社会保険手帳の管理は被雇用者が自身で行います(社会保険法第18条2項)。なお、旧労働法においては雇用者が社会保険手帳を預かる事を、禁ずる条文まで記載されていました。法規上はそうなのですが、実際にはほとんど雇用者が管理しています。また、現行の労働法にはこれを禁ずる規定は記載されていません。
(2)被雇用者が退職する際には、社会保険加入期間の確定に係る手続きを、雇用者は行います。その確認の上で、雇用者は社会保険手帳を被雇用者に返却します(労働法第48条3項、社会保険法第21条5項)。
(3)雇用者が被雇用者に対して、社会保険手帳を返却しない場合、最高額で7,500万VNDを超えない罰金が科されます [政令No.12/2022/ND-CP(政令12)第41条4項d]。この罰金額は個人に科される場合で、組織に対する際には金額が2倍となります(同政令 第6条1項)。以下で同政令が適用される事例でも同様です。
Ⅳ.年次有給休暇(有給休暇)の清算
(1)退職日までに未消化の有給休暇に関して、被雇用者はそれを賃金に換算して受給できます(労働法第113条3項)。従いまして、被雇用者に残存の有給休暇がある場合、雇用者は金銭で清算する必要があります。
(2)その有給休暇の買い取り額は、被雇用者の退職直近の月の雇用契約書に記載された賃金額を、雇用者が適用している標準勤務日数で割り算出します。その額が1日当たりの有給休暇の買取額となります[政令No.145/2020/ND-CP(政令145)第67 条3項]。
(3)この賃金には基本給と諸手当(資格手当、外国語の能力手当、役職手当、通勤手当、通信手当、住宅手当などを含む)が含まれます(労働法第90条1項、通達No.10/2020/TT-BLDTBXH第3条5項)。
(4)試用期間の終了後、正式な雇用契約書を締結した被雇用者に対しては、その試用期間に遡及して有給休暇が与えられます(政令145第65条2項)。ただし、試用期間だけで雇用契約が終了した被雇用者については、有給休暇が与えられないので、雇用者には清算義務がありません。
(5)雇用者が退職時の残存の有給休暇を清算しない場合、その違反した人数に応じて500万~5,000万VNDの罰金となります(政令12第17条2項)。
(6)最後に有給休暇の清算について解説しますと、旧法においては就業規則などにおいて1年等の期限を設定し、雇用者が清算する事が認められました。ところが、現行法ではその条文が削除されており、雇用期間中の清算が認められなくなったと考えます。
(7)雇用者の対策としては、年間の有給休暇の消化スケジュールを設定して、有給の消化を促進する方法があります。このスケジュール設定をしない場合、残存する有給休暇の清算額を平日の賃金の300%として算出するという労働傷病兵省社会事業省の公文書No.3917/LDTBXH-LDTL3項がありましたが、この公文書は旧労働法と共に失効しています。ただし、大変厄介な事に現時点においても、これに基づく清算が必要と指導する行政当局があります。
(8)上記のようなリスクもありますので、被雇用者の有給については消化を極力促す事をお奨めします。(了)
次回は試用期間、有期限契約の終了時などの注意事項について解説します。
文/斉藤雄久(さいとうたかひさ)
東京都葛飾区出身、 早稲田大学社会科学部卒。 1994年12月のハノイ大学 への留学以降、 ベトナム在住は25年以上となる。 現在 AIC Vietnam Co.,Ltd. の President。当地での豊富なビジネス経験に基づく独自の観点から、法規に 基づく最も実務的なアドバイス業務を実践するほか、 国内外での講演も多数。