産業機器への投資において、適切な機械を選ぶことがゴールではありません。生産効率は、その設備が実際のニーズに適しているか、どれだけ迅速に稼働を開始できるか、またトラブル発生時にサプライヤーがどう対応するかにも左右されます。ベトナム国内に技術コンサルティング体制、機械・部品在庫、サポートチームを整備するThịnh Qua社は、設備販売会社から、工場への投資・運営の全過程に伴走するパートナーへと役割を広げています。
2008年にホーチミン市で設立されたTHINH QUA TRADING SERVICE ONLY MEMBER COMPANY LIMITED(以下、Thịnh Qua社)は、機械加工、金属加工、金型加工向けの設備およびソリューションを提供しています。17年以上にわたる事業展開を通じて、ベトナム国内にショールーム、機械在庫、技術チームからなる体制を構築し、東南アジアの一部市場にも事業を拡大しています。
機種ありきではなく、生産課題から出発
Thịnh Qua社は、CNC旋盤、CNCフライス盤、CNCマシニングセンタ、レーザー切断機、レーザー溶接機、プレスブレーキ、研削盤、金型加工設備など、自動化・機械加工・金属加工分野向けに幅広い設備を提供しています。

ただし、同社代表のThúy氏によると、コンサルティングは既存機種の紹介から始まるわけではありません。技術チームがまず確認するのは、顧客が何を生産したいのか、どの材料を使用するのか、想定生産量はどの程度か、投資予算はいくらか、そして将来どのような拡張計画を持っているかという点です。
こうした情報を踏まえ、既存設備を単に紹介するのではなく、用途に適した機種と仕様を提案します。
CNC設備については、部品形状の複雑さ、加工要件、予算に応じて、投資段階から3軸、4軸、5軸の仕様を選択できます。異なる仕様の機種を幅広く取りそろえることで、個々の生産ニーズに合った選択肢を提案しやすい体制を整えています。
このアプローチは、Thịnh Qua社が目指す役割を示しています。すなわち、機械を供給するだけでなく、顧客の各成長段階に適した投資計画の策定も支援することです。
機械在庫で設備投資のリードタイムを短縮
Thịnh Qua社の迅速な対応を支える基盤の一つが、約5,000 m²のショールーム兼機械倉庫です。顧客への供給に備え、多様な設備を在庫しています。
ベトナム国内に在庫がある機種については、必要な手続きが完了次第、顧客に納入できます。中国のメーカーへ直接発注する必要がある一部機種についても、輸送および通関の状況に応じて約2週間程度で納品可能です。
生産能力を拡張中、または設備を更新中の工場にとって、待ち時間の短縮は、生産ラインをより早く稼働させ、生産計画への影響を抑えることにつながります。
またショールームでは、カタログや仕様書だけに頼ることなく、投資を決める前に設備を実際に確認し、試運転することができます。
営業部門と技術部門を分業
設備販売会社の多くでは、営業担当者が最初から最後まで顧客対応を担います。Thịnh Qua社は、これとは異なる体制を敷いています。

営業部門は、要望の受け付け、初期提案、プロジェクト進捗の管理を担当します。一方、据付、調整、試運転、操作教育、検収、トラブル対応は、すべて専門の技術チームが担います。
現在、同社の従業員数は100人を超え、そのうち約40人が技術部門に所属しています。
特に、技術スタッフと営業スタッフの双方を中国の提携工場へ派遣し、新しい技術や設備に関する知識を継続的に更新しています。この研修により、営業担当者も製品を十分に理解し、初期段階で顧客ニーズを的確に把握するとともに、導入時には技術部門と円滑に連携できます。
中国のメーカーと日常的に業務を行っているため、Thịnh Qua社では多くの従業員が技術的なやり取りを中国語で行えます。複雑な専門課題が発生した場合にもメーカーと直接協議できるため、情報の行き違いを抑え、対応時間を短縮できます。
部品在庫と対応プロセスで設備停止時間を短縮
生産工場にとって、アフターサービスの価値は、単にトラブルへ対処することではなく、設備を最短時間で復旧させることにあります。

そのためThịnh Qua社は、ベトナム国内に数千点の部品を在庫しています。トラブル発生後に海外から部品を取り寄せるのではなく、技術者が工場へ向かう前に必要な部品を準備できる体制です。
これと並行して、顧客からの連絡を日々受け付け、処理する仕組みを運用しています。毎朝、経営陣と関係部門が顧客からの要望を集約し、優先度に応じて担当技術者を割り当てます。
顧客ごとに、営業、技術、カスタマーサービスの担当者が参加する専用のSNSグループを設けています。技術者が現場へ向かう前に情報を共有することで、設備の状態を一次判断し、適切な対応方法を準備できます。
トラブル対応に加え、顧客向けのアフターサービスプログラムとして、設備の定期点検と清掃も実施しています。
技術サービスを基盤にASEAN市場へ展開
Thịnh Qua社は現在、ベトナム市場だけでなく、東南アジア各国へも事業を拡大しています。ベトナム国内の体制強化に加え、すでにタイへ進出し、インドネシアへの展開も進めています。
この事業拡大の目的は、単なる市場開拓ではありません。技術チームを生産集積地の近くに配置し、据付、保守、顧客支援に要する時間を短縮することも狙いです。
設備販売と並行して、FDI企業、特に中国および台湾からの投資家向けサービスも展開しています。Thịnh Qua社の役割は機械選定にとどまらず、生産方針の策定、ライン構築、ベトナムでの工場立ち上げまで、顧客を支援することです。
FDI顧客からベトナム企業へ顧客層を拡大
現在、Thịnh Qua社の顧客構成は、台湾企業が約40%、中国企業が約30%、ベトナム企業が約20%です。残りは韓国、シンガポールなどの企業が占めています。

今後はベトナム国内の製造企業、特に独自ブランドの構築を進め、生産能力へ計画的に投資する企業との取引を拡大する方針です。こうした顧客は、設備を1台購入するだけでなく、適切な技術、ラインの拡張性、長期的な投資効率も検討する必要があります。そのため、販売段階で初めて関与するのではなく、より早い段階からコンサルティングに参加したいと考えています。
EMIDASものづくり商談会(FBCアセアン)―生産投資の課題解決を模索する企業との接点
Thịnh Qua社にとってEMIDASものづくり商談会(FBCアセアン)は、設備を展示する場にとどまりません。新規投資、ラインの高度化、工場拡張を計画する企業と直接出会う機会でもあります。こうした顧客のニーズは、特定の機種だけでは完結せず、設備仕様、導入体制、操作教育、引き渡し後の技術支援まで多岐にわたります。
展示会での対話を通じ、Thịnh Qua社は各社の生産課題をより深く理解し、イベント後の技術コンサルティングや協業につながるニーズを見極めたいと考えています。また、ベトナム国内の製造企業やFDI企業に加え、ベトナムおよび東南アジアのサービスネットワークに参画できるパートナーとの接点も広げる方針です。
ものづくり商談会への出展は、Thịnh Qua社が目指す今後の方向性も示しています。サプライヤー間で設備仕様だけによる差別化が難しくなる中、ニーズを的確に捉える提案力、迅速に設備を立ち上げる力、継続的なアフターサポートが決定的な要素になります。ベトナムで築いた基盤を生かし、Thịnh Qua社は機械販売会社から、顧客の投資、操業、生産能力の向上に伴走するパートナーへと、段階的に役割を広げています。