カメラやアウトドア・レジャー用品、一般消費財(日用品)など、私たちの身近な製品には、わずか数ミリの精密部品が数多く使われている。Okamoto Engineering Vietnam Co., Ltd.は、自動旋盤による精密切削加工を得意とするメーカーだ。かつて技能実習生を受け入れる組合の要職を務めていた日本本社の社長は、帰国後の実習生が日本で培った技術を発揮できる場をベトナムに設けたいと考え、2013年に同社を設立。当初は樹脂加工からスタートし、顧客の要望に応えながら加工技術や対応領域を広げてきた。ベトナムで培ってきた精密加工技術と、現地法人社長・岡本牧人氏のものづくりへの思い、さらに現地社員とともに築いてきた成長の軌跡を聞いた。
カメラの操作感を左右する、数ミリの精密部品
Okamoto Engineering Vietnamの原点は、光学機器向けの樹脂部品加工にある。現在も主力製品の一つとなっているのが、カメラのズームレンズ内部に組み込まれる樹脂製の「コマ(ローラー)」だ。外からは見えない小さな部品だが、ズームリングを回したときの滑らかな操作感を支える重要な役割を担う。
コマは、レンズ鏡筒のカム溝の中を転がりながら動く。わずかでも寸法が大きければズーム操作は重くなり、逆に小さければガタつきが生じる。そのため、ミクロン単位で寸法を管理しなければ、本来の性能を引き出すことはできない。
「厳しいものでは、公差は±5ミクロンで管理しています」と岡本氏は説明する。材質には温度変化の影響を受けやすいエンジニアリングプラスチック「POM」を使用しており、安定した精度で量産するには高度な加工技術と品質管理が欠かせない。同社は世界的な光学機器メーカーが求める厳しい品質基準をクリアし、こうした重要部品を供給している。
この樹脂部品の加工を出発点に、長年にわたり微細加工技術を磨いてきた。今では樹脂に加え、金属部品にも対応。丸棒からの自動旋盤加工を中心に、多品種・高精度の部品をベトナムで生産している。加工サイズは最大φ42まで対応する一方、φ4以下の超小型部品にも力を入れる。「Big Dreams In Small Works」というスローガンの通り、小さいほど難易度が増すという精密加工の世界に挑み続けている。
顧客の期待に応え続けた挑戦が、加工領域を広げた
この樹脂部品加工を起点としていた同社だが、取引が広がるにつれ、「金属でも加工できないか」「研磨まで任せられないか」「プレスにも対応してほしい」といった相談が次々と寄せられるようになった。

岡本氏は、そのたびに顧客の要望を形にする方法を探し続けた。そうして樹脂加工に加えて金属加工を立ち上げ、研磨加工やプレス加工、ワイヤーフォーミングへと対応範囲を拡大していった。さらに超量産案件に応えるため、スイス製のカム式自動旋盤「エスコマティック」も導入している。設備を導入するだけではなく、若手のベトナム人エンジニアとともにスイスへ渡り、現地で加工技術を学びながら、新たな加工分野を切り開いた。
「お客様の期待に応えたい、その一心でした」
その姿勢は、未経験の分野へ踏み出す原動力にもなった。過酷な屋外環境で使用される特殊部品では、アルマイトやイオンプレーティングなど、それまで扱ったことのない表面処理への対応が求められた。協力会社と連携しながら加工方法を確立するとともに、約30人の検査担当者を配置し、その教育にも力を注いだ。品質基準や検査体制も一から築き上げ、顧客の要求品質に応えられる仕組みを整えていった。
また、厚さ0.02mmのステンレスワッシャーでは、対応できる企業がなかなか見つからなかった。
「どこへ頼んでも断られてしまう。何とかできないだろうか」
この相談を受け、自社だけでなく外注先にも声を掛けたが、いずれも難色を示した。
「ベトナム中を探してもなかったので、逆にチャンスだと思いました」と岡本氏は振り返る。
日本本社の協力会社とも連携しながら生産の仕組みを構築し、生産設備をベトナムへ導入。現地での量産体制を実現した。この経験は、誰も手掛けていない案件こそ、新たな技術を生み出す機会になることを改めて教えてくれた。
現在では、自社で対応できない案件でも、ベトナム各地の協力会社を探し出し、ゴム製品やダイカスト製品、塗装部品などにも対応しながら、解決策を提案している。そうした取り組みが、「まずオカモトへ相談してみよう」という顧客からの信頼につながっていった。
「取り扱う品目を増やしてきたことこそが、一番の成長要因だったと思っています。生産数量自体はそれほど変わっていませんが、扱えるアイテムが増えたことで、主要顧客との取引もどんどん広がっていきました」
「オカモトに相談してよかった」と言ってもらえるよう、自らにリミットを設けず、顧客の要望へ真正面から挑戦し続ける。その実行力こそが、同社の最大の強みといえる。
ベトナム人社員とともに築いたものづくり
高精度な加工を支えているのは、設備だけではない。岡本氏が何より大切にしてきたのが、ベトナム人社員の育成だ。
2015年に岡本氏がベトナム法人へ赴任した当時、社員数は10人にも満たなかった。それから約10年、日本人は一人のまま、組織は約100人規模へと成長した。岡本氏が目指してきたのは、ベトナム人社員へ責任と権限を委ね、一人ひとりが現場で判断し、自ら改善し、次の世代を育てる仕組みづくりだった。
その積み重ねの中で、ベトナム人社員は着実に力をつけてきた。創業当初から在籍する社員は、今では各部門の責任者として後進を指導し、日本語で顧客との打ち合わせや会議をこなすまでに成長している。かつてスイスへ同行し、現地で技術を学んだ若手エンジニアも、今ではエリアリーダーとして活躍。自ら習得した技術を、部下へ丁寧に伝えている。人材の定着ぶりを裏付けるように、新規採用の多くは欠員補充ではなく、事業拡大に伴う増員によるものだという。
その成果は、工場の中にも表れている。
必要な治具や設備があれば、自分たちで考え、自分たちで作る。作業台や棚に始まり、今では「汚泥圧縮装置」や「バレル研磨機」といった生産設備まで社員自身の手で製作するようになった。現場で生まれたアイデアを形にする文化が、少しずつ根付いてきたのである。この自主性を育んできたのは、岡本氏の一貫した思いだ。
「従業員にも、『オカモトで働いてよかった』と思ってもらえる会社にしたいんです」
目指しているのは、技術を残すだけではない。人が育ち、その人がまた次の人を育てる。そんな循環をベトナムで築くことが、会社の未来につながると考えている。
ベトナム全土を視野に、次の成長へ
微細加工技術の高度化や加工領域の拡大に加え、同社は将来を見据えた取り組みも進めている。その一つが、生産現場のデータ活用と自動化だ。設備の稼働状況や生産実績、在庫情報などを一元管理し、必要な情報をリアルタイムで共有できる環境を整備した。フォーミング工程ではロボットを導入し、自社開発の自動測定機も活用しながら、品質と生産効率の向上を図っている。
自動化に力を入れる背景には、人件費が上昇し続けるベトナムで、より高い付加価値を生む工場を目指すという狙いがある。
岡本氏は、「人海戦術」という従来の常識から一歩踏み出し、AIやロボットを軸とした自動化で従業員一人ひとりの生産性を高めることこそ、今後の最大の武器になると見る。そうして生まれた付加価値を従業員に還元し、収入や福利厚生の向上につなげていく。それが、ベトナムで事業を営む意義だと考えている。
一方で、次の成長に向けた布石も打っている。同社はこれまでも、JETROの海外展開支援事業の採択を受けて工場を移転し、生産スペースを約1.5倍に拡張してきた経緯がある。順調な事業拡大を受けて現在の工場も手狭になりつつあり、生産基盤のさらなる拡充を視野に入れている。
販路開拓にも力を入れる。今年はベトナム裾野産業協会(VASI)へ加入し、これまで取引の中心だった日系企業に加え、ベトナム企業とのネットワーク拡大も目指す。裾野産業の高度化が進む中、ローカル企業との協業は、同社にとって新たな可能性を広げる取り組みとなる。
加工領域の広がりも、次の成長を後押しする。カメラ、アウトドア用品に続き、近年新たに参入したのが一般消費財(日用品)だ。
「生活に密着した日用品は、カメラやアウトドア用品と違い、ほぼすべての人が使う身近な製品です」
手応えを感じているといい、今後さらに力を入れていきたい領域の一つに数えられている。
FBCアセアンが広げる、人と人とのつながり
これらの取り組みを発信する場として、同社が毎年出展を続けているのが「FBCアセアンものづくり商談会」だ。同社にとってFBCアセアンは、新たな顧客との接点を築くだけでなく、ものづくりのネットワークを広げる貴重な場でもある。
昨年の商談会をきっかけに、これまで手掛けてこなかった新たなBtoC向け製品(日用品)の精密機構部品の引き合いを獲得するなど、着実に取引の幅を広げている。
岡本氏は展示会の魅力として、協力会社との接点が広がることも挙げる。特に表面処理などの分野では今も協力会社を探し続けており、そうした出会いが得られることも大きいという。
数ある展示会の中でもFBCアセアンを高く評価する理由については、こう語る。
「この商談会の最大の魅力は、私が知るベトナムの展示会の中で、日系企業の出展数と日本人来場者数がダントツで多い点です。異国の地で戦う日系企業同士、『一緒に盛り上げていこう』という連帯感からスタートできるため、非常に商談が進めやすく、成立しやすいという実感があります。ご無沙汰している方々と同窓会のように再会できたり、そこから新たなご紹介が生まれたりと、この商談会はまさに『ベトナムにおける日系製造業の最大のハブ』だと感じています」
今年は、会場で開催されるVASI主催の「コマ大戦」にも参加する。同社は第1回大会で優勝した実績を持ち、今回は社内大会で代表選手を選抜。優勝した社員には日本研修旅行を贈るなど、社内でも機運が高まっている。
最後に岡本氏は、来場者へこう呼びかけた。
「皆様、ぜひ弊社のブースにお立ち寄りいただき、加工のご相談はもちろんですが、『コマ大戦の極意』についてもご教授いただければ幸いです。会場で多くの皆様とお会いできることを、従業員一同、心より楽しみにしております」