家電やOA機器、自動車などに搭載される小型モーター向け含油軸受「ピースロン」を主力製品とする平和産業は、1961年の創業以来、粉末冶金技術を磨き続けてきた。原料の研究開発から設備設計、金型製作までを自社で手掛ける一貫体制を強みに、顧客ごとの課題に応じた技術提案を展開している。2026年にはベトナム・ロンアン省に新工場を開設し、量産に向けた体制づくりを進めている。日本本社の専務取締役を務め、現地法人トップも兼務する大竹秀法氏と、海外営業を主幹する本田一起氏に、同社のものづくりと今後の展望を聞いた。
顧客課題を起点とした技術提案
平和産業に寄せられる相談で最も多いのは、コストダウンに関するものだ。含油軸受は、ボールベアリングなどの精密切削加工品に比べて加工工程が少なく、低コストで製造できることから、代替部品として広く採用されている。そのため、顧客から「ボールベアリングを含油軸受に置き換えられないか」と相談されるほか、同社側から製法変更を提案することも少なくない。軸受に限らず、例えばギアも同様だ。ギアは一般的に切削加工で製造するが、粉末冶金であれば金型を使って最終形状に近い状態まで成形できるため、切削工程を減らせるうえ、材料ロスも抑えられ、結果としてコストダウンにつながる。
こうした提案を支えているのが、豊富な原料ラインアップと材料開発力だ。同社は鉄系や銅系、鉄銅系など60種類以上の粉末材料を取りそろえる。競合の多くが既に配合された材料を成形するのに対し、平和産業は原料特性を生かし、材料そのものを設計・提案できる。
含油軸受では配合のわずかな違いが静音性にも影響するという。大竹氏は「銅を少し増やすだけで、コストは上がりますが、音は静かになります。お客様が求める性能に合わせて、材料の配合まで設計できることが当社の強みです」と説明する。こうした材料設計の知見は、軸受へ含浸させるオイルの選定にも生かされている。低温でも性能を維持するものや高温でも蒸発しにくいものなど、オイルメーカーとの共同開発を進め、用途に応じた最適な粘度を選定している。
品質を支えるのは現場の作り込み
同社の技術力を支えるのが、粉末冶金によるものづくりだ。金属粉末を金型で圧縮成形した後、高温で焼き固める「焼結」を経て製品をつくる工法で、原料の配合・混合から成形、焼結、サイジング、含油、最終検査までを一貫して行い、小型精密部品を製造している。
大竹氏は、「当社の設備は非常に繊細です。同じ条件で製造していても、その日の気温や湿度、鉄粉の一粒一粒の状態によって仕上がりは変わります」と話す。そのため、品質を安定させるには工程条件を管理するだけでは不十分だという。
「決めた条件どおりに製造していても、途中でばらつきが生じることがあります。各工程で製品の状態を見ながら細かく調整し、自工程で品質を作り込んでいくことが重要です」
平和産業が長年培ってきた粉末冶金技術は、日本国内にとどまらず、ベトナムの新工場でも受け継がれていく。
課題解決から生まれた独自材料
同社の原料開発力を象徴するのが、独自材料「FCS-500」である。誕生のきっかけは、「銅は必要だが高価なため、使用量を減らしたい」という顧客の相談だった。含油軸受にとって銅は滑り性や静音性を左右する重要素材だが、単純に減らせば性能低下を招く。そこで、鉄粉の表面だけを銅でコーティングする材料「FCS-500」を開発した。鉄の耐摩耗性を生かしつつ、摺動面には銅を配置することで、静音性と低コストを両立した材料である。
「FCS-500」は銅の成分を20%程度まで削減しながらも銅の特性を活かすことができ、同時にコストも抑えられる。また、求められる品質やコストに合わせ、「FCS-500」をベースに銅の配合量を調整するといったカスタマイズも可能。銅価格の高騰が続く中で、平和産業ならではのVA材として多岐にわたる分野で採用が進んでいる。
鉄粉表面への銅コーティングという基礎技術自体は以前から存在していたものの、それを量産技術として確立した点に同社の技術力がある。大竹氏によると、このテーマは当初、社内でも実現は難しいとの見方があったが、技術部が粘り強く研究を重ね、実用化へこぎ着けたという。

開発スピードを支える内製化
顧客ごとに最適な材料や製法を提案するには、試作と改良を短期間で繰り返す必要がある。それを可能にしているのが、金型や生産設備の内製化だ。
大竹氏は、「一般的な金型というと、大きなプレス金型をイメージされる方が多いと思いますが、当社の金型は大きくても人差し指ほどのサイズです」と説明する。金型のわずかな寸法やかみ合わせの違いがバリの発生や寸法精度に影響するため、試作品を評価しながら細かな修正を繰り返し、最適な形状へ仕上げていく。
「一度作ってみて、少し修正してくださいというやり取りを外部の金型メーカーと繰り返していては、開発スピードが追いつきません。そのため、社内で製作・調整できるようにしています」
生産設備についても同様だ。創業以来、自社で開発・改良を重ねてきたことで、顧客の要求に応じた設備の改良が可能となり、生産性と品質の向上を実現している。
原料開発から金型製作、量産までを一貫して手掛ける体制が、多様なニーズへ迅速に対応できる同社のものづくりを支えている。

ベトナムで日本品質を再現
日本で培ってきた品質を、ベトナムでも再現すること。それが新工場立ち上げの最大のテーマだった。高温多湿な環境で日本と同じ品質を維持するため、原料倉庫から製造工程まで空調管理を行い、温度・湿度を社内基準の範囲内に維持している。
人材育成にも力を入れる。現在は幹部候補や検査員を中心に採用を進めており、幹部候補には日本で技能実習生や特定技能人材として働いた経験を持つ人材を積極的に迎え入れ、技術や品質管理のノウハウを円滑に継承できる体制を整えている。大竹氏は、勤勉さや手先の器用さといったベトナム人材の資質も、繊細な調整を要する粉末冶金のものづくりに適していると見ている。
新工場はタイニン省(旧ロンアン省)に構えた。ホーチミン周辺という立地は、日本から原料を調達しやすいだけでなく、港湾へのアクセスに優れ、タイやインドネシア、さらにはインドへの輸出拠点としても機能する。
工場には、複雑形状へのニーズの高まりを見据えて大型プレス機を導入した。これまで主力としてきたモーター向け軸受やギアに加え、自動車部品や二輪車部品など、モーター以外の焼結部品へ事業領域を広げていく構想だ。ベトナム工場は、高品質な量産を担う生産拠点であると同時に、新たな製品分野へ挑戦する場にもなる。
ASEAN市場へ広がる事業領域
ベトナム工場では、日本や中国で生産している製品を順次移管するとともに、新たな市場の開拓を進めていく。これまで主な取引先は日系メーカーだったが、今後は韓国系メーカーやベトナム企業との取引拡大も視野に入れる。部品単体の供給だけでなく、モーターへ組み込んだ状態での納品など、より付加価値の高い提案にも取り組む。さらに、熱処理や表面処理などを担う現地企業との連携を広げながら、現地で完結するサプライチェーンの構築も目指す。ベトナムでは焼結部品メーカー自体がまだ少ない。材料や製法から提案できる持ち味を生かし、新たな顧客との接点を広げていく考えだ。
大竹氏は、当面の目標としてベトナム工場のフル稼働を掲げる。その先に描くのは、グループ内での役割分担の最適化だ。日本は新しい設備や材料を生み出す開発拠点へ、中国は営業機能と技術対応を強化する拠点へ、そしてベトナムはASEAN展開を支える量産拠点へ。それぞれの強みを生かした体制が、平和産業の次の10年を形づくっていく。