悩み:今年は日本とベトナムが外交関係を樹立して50周年という記念の年だそうで、いろんな行事が開催されていますよね。このタイミングでベトナムにいるのは幸運なことなので、私も何らかの形で参加したいと思っています。どんな方法がありますか。(私は今年が生誕50周年・留萌さん・男性)
50周年認定事業に応募しよう
既にご覧になっていると思いますが、まずは「日越外交関係50周年記念特設サイト」を見てみましょう。
様々な記念行事は「実行委員会主催事業」と「50周年認定事業」の2つに大別できます。後者は「この記念すべき年をできるだけ多くの人々と共に祝い、両国の交流を一層促進するため、様々な事業を50周年事業として認定します。(中略)特別な1回限りのイベントや祭りに限らず、日頃からの継続した日越交流、友好親善に資する活動・取組、規模の大きいものから草の根のイベントまで、たくさんの申請をお待ちしています!」(特設サイトより引用)という趣旨ですから、敷居は低いですよ。
──私の会社は小さなメーカーで、人手や費用がかかることをやるのは難しいんですが。
「工場見学会」を50周年事業の認定を受けて実施された企業さんもありますよ。例えば、日本の製造業に興味があるベトナム人の若者に声をかけて、御社の工場を見てもらうとか、そういうイベントなら実現可能性はあるんじゃないですか。
──ベトナム人技術者を増やしたいと思っているので、リクルート活動の一環になるかもしれませんね。
私の知っている例では、チャリティバザーを開催して、その売上をベトナムのストリートチルドレンが住む施設に寄贈しようと計画している会社もあります。これも比較的実行しやすいですよね。
──そうか、今まで「すごく大掛かりなことをしなければいけない」という先入観にしばられていたような気がします。
認定事業になったからと言って予算がつくわけじゃなく費用は自腹ですが、それでも「50周年認定事業」というお墨付きをもらえると嬉しいですよね。
日本とベトナムにまたがる恋物語
──特設サイトを見ると本当にたくさんの記念行事が行われていますね。
中でも「目玉イベント」だと私が考えているのは、新作オペラ『アニオー姫』の世界初演です。50周年を記念して作られたもので、9月22日、23日、24日の3日間、ハノイのオペラハウスで公演が行われます。
──外交関係樹立文書への署名が9月21日ですから、その翌日ですね。
そうですね。そしてこの作品は、まさに日本とベトナムの友好関係を象徴するような内容です。時は江戸時代初期、長崎に荒木宗太郎という商人がいました。彼はご朱印船貿易をしており、ベトナムも何度か訪問しています。その時に広南国(今のベトナム中部から南部を版図とした国)の王様に気に入られ、彼の養女・ゴックホア姫と結婚しました。
──日本の商人がベトナムのお姫様と結婚したんですか。それは驚きです。
そうなんですよ。2人は長崎に居を構え一人娘にも恵まれ、ゴックホア姫は宗太郎に先立たれた後も長崎で暮らしました。2人は今も長崎市内にある大音寺の荒木家のお墓に一緒に眠っています。この2人の恋物語をモチーフにしたのが、新作オペラ『アニオー姫』なんですよ。
──それで「アニオー姫」というのはどこから来たのですか。
姫が宗太郎を呼ぶときの「Anh oi」(アィンオーイ)が周囲の人には「アニオー」と聞こえたようで、姫には「アニオーさん」という愛称がついたそうです。
──そんな実話があったとは知りませんでした。
でも「長崎くんち」という言葉は聞いたことがおありですよね。
──はい、長崎で行われているお祭りの一つですよね。
あれはアニオー姫の輿入れの様子を再現した祭事なんですよ。毎年10月7~9日に開催されています。
創作オペラは日越協力の結晶
オペラの内容もさることながら、この公演に関わっている人たちも、まさに記念事業にふさわしい顔ぶれなんです。まず演奏をするのはベトナム国立交響楽団で、指揮者は本名(ほんな)徹次さん。本名さんは、2001年に同楽団の音楽顧問兼指揮者に就任し、2009年からは音楽監督兼首席指揮者としてベトナム国立交響楽団を引っ張っています。まさに音楽でベトナムと日本の架け橋となっている人物なんですよ。
──そんな人がいらっしゃるのですね。
出演するのは日本人とベトナム人のオペラ歌手達で、もちろん日本語とベトナム語の2つの言語で上演されます。作曲はチャン・マィン・フンというベトナム人の有名作曲家で、演出は大山大輔さんという日本の方。
──まさに日越合作なんですね。
さらにキービジュアルとなる漆絵を担当されたのは、1995年からベトナムに住まれている安藤彩英子さん。漆絵はベトナムの伝統的な絵画手法の一つで、安藤さんはベトナムを代表する漆絵作家の一人として国内外で活躍されています。
──私はクラシック音楽はさっぱり分からないのですが、そういうお話を聞いていると興味をそそられます。公演を聞くことは可能なのでしょうか。
チケットは一般発売もされるのですが、おそらく入手は不可能に近いと思われます。11月4日(土)には日本の昭和女子大人見記念講堂でプレミア公演が行われることが決まっていますが、こちらもプラチナチケットになるでしょう。中継などに期待ですね。
──そうでしょうね。ユーチューブなどで見られるようになるのを期待しています。
『アニオー姫』プロジェクトについての詳細は、特設ウェブサイトに書かれていますので、ぜひ一度、ご覧ください。
外交関係樹立はベトナム戦争中
──ところで今から50年前というと1973年で、まだベトナム戦争の真っ只中。ベトナムが今の国家体制になったのは1976年ですよね。つまり戦争中に外交関係が樹立されたということですか。
そうなんです。ベトナムと日本が外交関係樹立を約束した文書に署名をしたのは1973年9月21日のこと。ベトナム側はベトナム民主共和国、北ベトナムです。場所はフランス・パリにあるベトナム民主共和国総代表部でした。ちなみに文書に使われた言語はフランス語です。
──その時はベトナム共和国(南ベトナム)もまだ存在していましたよね。日本は資本主義陣営なので、南ベトナムを支援している側だと思っていたんですが。
よくご存知で。外交関係樹立からさかのぼること約8か月前、1973年1月に「ベトナム和平のためのパリ協定」が締結されています。これを受けて同年3月にはアメリカ軍が南ベトナムから全面撤退。戦争自体は続いていましたが、この年に大きく潮目が変わったんですね。それを受けて同年7月から、日本とベトナム民主共和国との間で、国交正常化のための交渉が始まりました。そして9月の調印を迎えるわけです。その間の経緯については、5年前の日越外交関係樹立45周年の時に記念プロジェクトの一つとして開設されたウェブサイトに詳しく書いてあります。
https://www.archives.go.jp/event/jp_vn45/ch04.html
50周年は未来への出発点
2023年は既に後半戦に入っていますが、外交関係が樹立した9月21日を中心に、様々な50周年記念事業が予定されています。一般の方でも参加しやすいイベントをリストにしてみました。ベトナム国内だけでなく、日本でも開催されています。
──この情報を友達にも共有します。一人でも多くの人が参加することで、50周年を盛り上げていきたいですね。
その際に頭に留めておいて頂きたいのは「継続は力なり」の言葉です。何かイベントをやって、それで終わり。そんな「打ち上げ花火」のようなことではいけないと思うんです。50周年は長い歴史と未来を持つ日越関係の「通過点」に過ぎません。50周年を記念して行った友好事業を、今年限りではなく、来年以降も末永く継続できるといいですね。
──我が社で、例えばチャリティイベントをやることになったら、これを毎年継続し、10年後、20年経ったときに「このイベントは50周年記念の年に始めたんだよ」と振り返ることができるようにしたいですね。
【エミダス博士】 ベトナム生活に関する雑学博士。 長年のベトナム暮らしで得た知識を元に、当地で暮らす方々が直面する様々な質問にお答えします。 難問・奇問、大歓迎。 知りたいことがあれば、 emidas-m@nc-net.vn まで。