レタントンの角打ち【日本酒で乾杯!】時代から、ご夫婦で、ご家族連れで、そしてお酒を飲む場所ではありますが、小さいお子様を連れて、ちょくちょくご来店くださるお客様たちが結構いらっしゃいました。
コロナ前には定期的に日本酒イベントを行っており、ご家族連れで参加される方も多く、最近また、ぼちぼち定期的にイベントができるようになりました。
休みの日、ご家族で外食された後、お母さまは先に家に帰られ、就学前のお子様をお連れのお父様が、同じぐらいの年のお子様連れのお父様たちと当店でお酒を楽しまれ、子どもたちはカウンターの隅でゲームを楽しむ。「あと一杯、あと一杯……」とついつい長居されるお父様に、子どもたちは「早く帰ろーよー」とゴネることはありません。「いい加減にやめなさい」と小言を言う母親はおらず、ゲーム三昧の絶好のチャンスだからです。一方お母様は、しばしの「ひとり時間」をおうちで過ごされる。
そのうちにレタントンのヘムは風俗店が立ち並び、アオザイを着た女性たちの強引な客引きが増え、「シリコンバレー」という異名を取る街になってから、女性たち、とくにお母様方が敬遠する繁華街と変貌しました。子どもたちに「お母さん、『まじめなマッサージ』ってなぁに?」と質問され、答えに窮するお母様たち……。そんなこんなで女性のお客様方の足が遠のいたのが、私がPham Viet Chanhに拠点を移した理由の一つでした。
【蔵 KURA】Kaku-Uchi&SAKE Shopになってからまた、昔のようにご夫婦で、ご家族でご来店くださるようになりました。時々、バギーに一歳ぐらいのお子様を連れて来られるご夫妻は、片手でお子様を抱えて片手でグラスを傾けて……交互にお子様とスキンシップしながら、お酒を愉しまれていて微笑ましい光景です。
また日本から「家族が来た」と、奥様や、もう飲める年齢になったお子様方をお連れになる単身赴任のお客様も少なくありません。怪訝な顔でお店に入って来られた奥様も、「こういうお店で飲んでるのー」と、しだいにお顔の表情が穏やかになっていかれます。当店はお客筋が良いことでも安心していただけます。成人したお子様方と一緒に飲んでいらっしゃるごようすは、子どものいない私にとっては家族的な温かさに包まれて、とても幸せな気持ちになります。またそのお子様たちが学校を卒業されたり、就職されたり、ご結婚されたり、さらにお孫さんが生まれてお客様ご自身がおじいちゃん、おばあちゃんになられるのを拝見しておりますと、この仕事をしていて本当に良かったと思います。
また以前、当店のマスコット的存在だった女性のお客様は、駐在時期に彼氏を連れて来られたことがありましたが、本帰国されてからご結婚されました。そして「新婚さんいらっしゃい!」に出演するというニュースが常連さんたちの間で瞬く間に流れ、日本で、ホーチミンで、みんなでお祝いの気持ちを共有したのでした。
またオーストラリアからいらした方たちは、「今日は母親の誕生日で家でパーティーするんだ」と日本酒を買いに来られ、年老いたお母様を気遣いながら「こっちは次男とその奥さん」と紹介してくれたり。そのお母さまのご様子がどこかウチの母を思い出させ、もう三年以上会っていないことをつい思い出してしまいました。
そんな「家族」の思い出が詰まったお店で、これからもありたいと思います。
文/月森砂名(つきもりさな )
奈良県出身。 同志社大学卒業。 2015年、ベトナ ム初の角打ち 【日本酒で乾杯!】 に続き、2020年、 Pham Viet Chanh にて日本酒専門の「角打ちのあ る酒屋」 【蔵 KURA】 をオープン。 経営に携わる。 東京で舞台撮影や制作の仕事をする傍ら、 作家活 動を行う。 2009年よりNPO法人 Layer Box にて、 日本の伝統文化について、 大学、 高校、 専門学 校とともに、PV、3D、CG などのコンテンツ制作お よび世界発信を行う。