企業の管理者は、自社の改善プログラムの結果が思わしくないことについてよく不満を述べる。いわく、改善の度合いが低い、改善目標が達成できない、改善案件の結果を維持できない、改善を全社的に展開できないなど。経験上、これらの課題は、企業が改善プログラムを作成、運用する方法、特に改善における変更管理の全体的な思考の欠如に原因がある。この局面において、企業が改善プログラムをより明確に把握するために、P&Q Solutionsは改善における変更ピラミッドモデルの効果について、開発、試験、検証を行った。

改善における変更ピラミッドには、変更の各要素、各要素の関係(結果から目的まで)、また、実際の改善実施におけるこのモデルの活用方法および企業の改善プログラムへの導入方法が含まれる。
変更すべき結果
改善の概念は“より良くするための変更”である。すべての改善活動は、改善する必要がある結果と、なぜその結果を改善する必要があるのかを特定することから始まる。改善すべきこととは、管理活動における測定指標そのものである。従って、改善活動は結果の測定システムに基づくべきであり、そこから各指標が明示され、戦略につながり、現状に反映されることで、改善すべき結果の正確な特定と評価につながる。例えば、ある生産ラインでは不良率が測定されていない、または測定されているが、その結果を損失に結びつけて財政への影響を評価することが行われていない場合、この結果に対する改善要求の特定は非常に難しくなる。これこそが、改善開始を目標とする変更ピラミッドの第1段目である。
やり方の変更
第1段目の解決後に続くのは、希望どおりの改善結果を得るために何を変えるべきかという問いである。実施すべき変更の正確な特定は、計画中の改善目標の実行可能性を決定する。簡単に言うと「古いやり方では新しい結果を出せない」からだ。何をどのように変えて行うかを知るためには、現状のデータに基づいて変更すべき結果に主に影響する要素を分析、特定する必要がある。適切なツール・実践を選択し、検証、修正のために試験を行う。多くのケースにおいて、影響する要素の双方向性と複雑さにより、多くの部署が連携して分析、試験に取り組む必要がある。このように、変更ピラミッドの第2段目は、現状の把握と分析、各ツール・実践の優れた理解と応用能力、チームワーク精神、そして積極的に試そうとする科学的思考-現状に甘んじることなく変更を恐れない-に関連している。
アプローチの変更
では、“希望する結果”を得た改善を時間とともに維持できなくなるのはなぜだろうか。自然の法則によると、あらゆる変更はその度合いに比例した障壁に遭遇する(生命が生存能力を維持するための一つの特徴だ)。続いての改善のチャレンジは、これらの障壁を乗り越えて積極的な変更を受け入れ、強化することだ。これらの障壁の大元は、利益、責任、信頼(知っていること、経験したことのみ信じるという認識の限界に関連する)といった一部の要素に関わる問題に対する考え方、アプローチの仕方であることが多い。例えば、ユニットに基づいて部品を事前に用意することは生産効率を上げ、組立工程でのミスを減らすとされるが、担当部署は業務が増える。この部署にとってはメリットがない。別のケースでは、生産スピードと各工程間の連携をバランスよく連続して回すことは生産効率を上げ、ミスを減らすが、設備担当部署にとっては設備事故の予防と迅速な解決に対するプレッシャーが増す。このような考え方やアプローチを変えない限り、新しい変更の効果が証明されたとしても、それは抵抗に遭い、徐々に維持できなくなる。これらの障壁をなくすために、変更ピラミッドの第3段目では、改善のための基本的な原則に対する利益、責任、所有、信頼についての新しい認識と考え方の提示に目を向ける。
目的と価値に対する認識の変更
企業が変更ピラミッドにおける第1~3段目を効果的に解決できると、改善機会の特定および効果的な変更が実施され、新しい実践が維持、強化される。しかしながら、多くのケースにおいて、改善活動が価値の拡大のために共鳴することがなく、互いの方針についての矛盾すら発生してしまう。例えば、サプライチェーン管理部門は在庫削減の改善を行う一方で、調達部門は1ロットの数を増やして原価を下げる改善を行い、生産計画部門では移動回数を減らすことによる生産移動時間の削減という別の改善を行っている(それにより生産ロットあたりの数が増える)。これらの状況は、通常、改善において企業が追及する目的と価値についての方向性が明確でなく、統一されていないことの表れだ。目的と価値の方向性の確定により、企業は各役職、各部署間での重要かつ優先的な改善の実施と連携を図ることができ、一貫性と効果が確保される。生産業界の場合、継続的なコスト削減、納期短縮、不良ゼロ、事故ゼロ、環境保護や社会責任といった内容は、典型的な目標だ。他方で、人材重視と継続的な改善は、生産システムの基礎的な価値とみなされている(トヨタ方式に基づく)。企業の目的と価値の確定、展開が、変更ピラミッドの第4段目の内容となる。
応用における双方向のサイクル
改善における変更ピラミッドは、実際の改善活動・問題解決の実施、そして企業全体への改善プログラムの展開において重要な役割を果たす。第一に、改善・問題解決は、①変更すべき結果の特定、②変更の方法・要素の特定と試験、③新しい考え方、アプローチによる効果的な変更の強化、④新しい目的と価値の方向性を通じた変更の統合と体系化、という順に実施される。順序を逆にした場合、改善プログラムは、①新しい目的と価値の方向性の特定、②改善における新しい考え方、アプローチの展開、③活動の実践・やり方、各要素の変更、④新しい結果の形成と確認、の順で実施される。
各企業のリーン式改善活動による実践経験では、改善における変更ピラミッドモデルに対する認識の統一と維持、および改善の双方向サイクルの一貫した適用と改善プログラムの実施により、改善活動の加速、効果の向上、持続可能性の強化が図られることがわかっている。
著者について:ファン・ミン・タン氏 P&Q Solutions 社長
RMIT大学(オーストラリア)土木工学部卒業。UBI大学(ベルギー)でMBA取得。企業マネジメント、特に運営管理分野で20年の評価・コンサルティング経験を持ち、P&Q Solutionsのサービス開発に直接に携わっている。P&Q Solutionsのメインコンサルタントの他、世界銀行やLinkSME、UNIDO、計画投資省、商工省、科学技術省のプログラムの専門家として活躍している。