前回に引き続き、雇用契約書の終了時において、雇用者が注意すべき事項について解説します。今回は試用期間、有期限契約の終了時における注意に関してです。
Ⅴ.試用期間中の退職
1. 法規に基づく概要
- 試用期間は、学歴、職歴、職位に基づき6営業日、30日、60日、180日に分類されます(労働法第25条)。労使双方は、この期間中においては事前通知を行うことは不要で、契約の解除が可能です(同法第27条2項)。
- 雇用者は試用期間中の者に対して、採用の可否を通知する必要があります。その通知の期限に関しては、旧法規においては規定がありましたが、現時点では失効しています。そして、これに関する現行法の細則は、まだ公布されていません。
- 不採用の通知に関しては、法規上は文書によって通知を行う義務はありません。そのため、口頭で伝えても違法ではありません。ただし、雇用者には本件において、慎重な対応が求められます。そのため、試用契約書の解除合意書(言語はベトナム語を正として、外国語の併記も可能です。)を作成して、労使双方がそれぞれ1部に署名し、保管することをお奨めします。
- 試用期間中の年次有給休暇(以下では有給休暇)について、法規上の規定は明確ではありません。雇用者によっては、試用期間中の者に対しても、有給休暇を与えている事例もあります。この有給休暇が試用期間の終了時に、未使用で残っている場合、雇用者は清算する必要があります。その清算方法については前回解説した通りです。
- 試用期間とその後の有期限の就労期間を、一つにまとめた雇用契約書を使用している雇用者もいるようです。確かに試用期間の終了後に、あらためて雇用契約を締結する手間も省けますし、一見便利なようですが、このような契約書では、退職時期、就労期間や各種社会保険の加入期間が曖昧になってしまい、後で誤解が生じる恐れもあります。そのため、試用期間と正規の雇用期間の契約書は、それぞれ個別にして締結する方が安全です。
- 試用契約中に失業保険の未払い期間があり、被雇用者が連続的に12ヶ月以上勤務して退職した場合、雇用者はその未納の期間に対して、事例によっては退職手当、あるいは失業手当を支払う義務が発生します(同法第48条2項、政令No.145/2020/ND-CP第8条3項
2. 雇用者に対する罰則規定
- 雇用者が被雇用者に対して、採否の通知を行わない場合、50万~100万VNDの罰金が科せられます(政令No.12/2022/ND-CP第10条1項)。
- 試用期間が規定の期間を超えた、同じ職務で2回以上の試用期間を設けた場合、雇用者には200万~500万VNDの罰金が科せられます(政令No.12/2022/ND-CP第10条2項)。
Ⅵ.有期限雇用契約の終了
- 雇用者が契約の更新を望まない場合、被雇用者に対して書面でその旨を通知する必要があります(労働法第45条1項)。この通知の期限についても、現行法上の規定はありませんが、更新しない場合には、被雇用者に早めに通知することが望ましいです。
- この通知を書面で行わない場合、100万~300万VNDの罰金が科せられます(政令No.12/2022/ND-CP第12条1項)。
- ※上記の雇用者に対する罰金額ですが、この金額は個人に適用される際のもので、組織に対する場合には、金額が2倍となります(同政令第6条1項)。
文/斉藤雄久(さいとうたかひさ)
東京都葛飾区出身、 早稲田大学社会科学部卒。 1994年12月のハノイ大学 への留学以降、 ベトナム在住は25年以上となる。 現在 AIC Vietnam Co.,Ltd. の President。当地での豊富なビジネス経験に基づく独自の観点から、法規に 基づく最も実務的なアドバイス業務を実践するほか、 国内外での講演も多数。