Chúc mừng năm mới! 明けましておめでとうございます。皆様は今年のテト(ベトナム正月)をどのように過ごされたでしょうか。日本で「一年の計は元旦にあり」という言葉があるように、その年のビジネスで良い結果を出すためには、いい形でテトを迎えることは必須だと言えます。ベトナム初心者の方も長期在住の方も、この機に「上手なテトの過ごし方」を一度、整理してみませんか。
テトに関する「基本の基」
ベトナムに来たばかりの方でも、今年テトを経験されて、どのようなものかはお分かりですよね。来年のために、ここでテトに関する基礎知識をおさらいしておきましょう。
- ベトナムの元日は1月下旬から2月中旬の間
ベトナムでは伝統的な年中行事は今でも旧暦で行われています。お正月も旧暦の1月1日のこと。新暦での日付は毎年変わり、1月下旬から2月中旬の間です。2021年は2月12日(金)でした。2022年のテトは2月1日(火)です。旧暦の大晦日は30日なのでご注意ください。年によっては29日のこともあります。
- テト休みの期間は毎年11月前後に決まる
テト休みは労働法で5日間とされています。2021年は土日が入るため振り替えが行われ、大晦日の2月11日(木)から17日(水)までの7日間でした。翌年のテト休暇が何日から何日になるかは、毎年10~12月の間に政府が決定します。テトの時期は鉄道や飛行機の切符が取りにくくなります。帰省する従業員のために会社の休日も早めに決めましょう。
- 「かまど神の日」を過ぎたらもう仕事にならない
テトを迎える上で大切なのは、旧暦で12月23日の「かまど神の日」です。「かまど神」とは台所の神様と家の守り神を兼ねた存在。12月23日に天に昇って、その家で1年間に何があったかを天上の神様に報告し、大晦日に戻って来ると伝えられています。
- 大晦日の正午を迎えると同時に街は一斉に正月に入る
大晦日の正午が近くなると、ほとんどの店は一斉に商売を止めます。年末の風物詩である花市も大晦日の正午には店じまい。そして正午からは各家庭でご先祖を迎える儀式を行います。これが終わると宴会を始める家も少なくありません。元日の午前0時になると各所で花火が15分間打ち上げられます。
- 北部と南部でテトの流儀も異なる
同じベトナム国内でも北部と南部では文化が異なることはよく知られています。これはテトに関する流儀も同じ。テトを迎えるために飾る花は、ハノイなど北部では桃色の「ホアダオ」、ホーチミンシティなどの南部では黄色い「ホアマイ」です。正月料理に食べるちまきも、北部で一般的なのは四角いバインチュンで、南部は円筒状のバンテットです。
- ベトナムにも十二支があるが、動物が一部日本と違う
ベトナムと日本で十二支の動物が異なるのは、次の4つです。牛→水牛、ウサギ→ネコ、ヒツジ→ヤギ、イノシシ→ブタ。つまり今年ベトナムでは水牛年です。ちなみにタイもウサギではなくネコと、ヒツジではなくヤギです。またイノシシなのは日本くらいで、他の国はブタが一般的です。
実例集「我社はこんな風にテトを過ごした」
ベトナムで事業を行っている日本企業各社は、テトを迎えるにあたりどんな準備をしているのでしょうか。各社の事例を集めてみました。
- A社の事例:帰省用の無料バスを会社が用意
弊社の工場ではメコンデルタ出身者が多く、テト休暇で帰省すると、休み明けに職場に復帰しない人がたくさん出るのが頭痛の種だった。そこで会社側でマイクロバスを用意して、ホーチミンシティからカントーなどの主要都市まで無料で送迎するようにした。そのお陰で復帰率が1割程度は上がったと思う。
一口解説:近年は総体的にテト休暇後の職場復帰率は高くなりましたが、以前は「帰ってこない社員が4割もいてやむを得ず減産をした」というような工場があるほど。「どうすれば社員が帰って来てくれるか」は経営者にとって大きな課題でした。2020年のテト休暇に際してホーチミン市当局は、市内で働く工場労働者2700人余を対象に、50台のバス、鉄道チケット450枚を無料で用意して職場復帰を促しています。これは毎年行われており、これまで無料で支給された鉄道、バスのチケットは3万枚近いそうです。
- B社の事例:13か月目の給料に驚いた
ベトナムで起業した初年度、テト前になって経理担当から「13か月目の給料を用意しておいてください」と言われて驚いた。ボーナスのことかと思ったら「会社の業績の良し悪しに関係なく、年末には1か月分の給料を餅代として支給するのがベトナムの習慣です」とのこと。今、弊社では年末になると13か月目の給料と、それに加えて業績に応じた賞与を出している。
一口解説:「13か月目の給料」は、最初は戸惑います。法律で定められているわけではありませんが、テト前に正規の給料に加えて、給料1か月分に相当するお金を支給する習慣があります。ベトナム人社員はこのお金を「ボーナスではなく給料」と認識している人が多く、「今年は業績が思わしくなかったから、給料の半月分しか出さない」となるとトラブルになります。毎月給料の12分の1を積み立てるなどして準備しておくと良いでしょう。
- C社の事例:ボーナスはテト前に半分、テト後に半分支給
マネージャーもワーカーさんも、仕事納めに給与・賞与50%を支給し、テト明けに残りを支給という形にしている。元々はテト後の復帰率を高めるために始めたもの。今はテト休み自体が短くなり、ワーカーさんも工場付近に家を借りているので、ほぼ100%職場に戻って来るが、これが我社の習慣になっているので続けている。
一口解説:テトボーナスを休暇の前後に分割して支給するという方法を採用している会社の話はよく聞きます。「会社を辞めるとしたら、テトボーナスをもらった後」という人は多く、テト後に半額を支給することで「テト転職」を減らすという効果もあるようです。
- D社の事例:年末の贈答品は社員全員で平等に
テト前になると、取引先からいろいろ贈答品を頂く。部品調達担当の部署に届くものが多いのだが、その部署の人たちが受け取ってしまうと不公平感がつのるだけでなく、不正の温床になる。そこで年末が近づくと『特定の部署宛の贈答品はご遠慮します。贈答品はすべて会社代表宛で』とアナウンス。そして届けられた贈答品は、忘年会のビンゴゲームの景品にしている。この方法は社員にも好評。
一口解説:テト前には多くの会社で忘年会を行います。宴会をするだけでも盛り上がりますが、社員がテト休暇を気持ちよく過ごせるように一工夫をしたいものです。社員に「お歳暮」を配ったり、「年間MVP」を選んで表彰し金一封を出すなど、イベントを行うと忘年会は盛り上がります。
- E社の事例:社長は忘年会で社員全員と乾杯
毎年、忘年会のときに、現地社長の日本人は、従業員全員と一人ずつ乾杯することになっている。ところが徐々に社員が増えてきて、ついに100人を突破。社長は飲める人だったが、さすがに100人となるとグラスを飲み干すことはできない。さらに社員は男性比率が高く、みんなかなりの飲兵衛ばかり。一口だけ飲んで残りは捨てられるようにバケツを用意してもらった。これはお酒を捨てるだけでなく、吐いてしまったときの用意だったという説もある。
一口解説:日本と同様、年末年始はお酒を飲む機会が増えます。例えお酒が苦手でも「Một hai ba zô!(北部:モッハイバーゾー/南部:モッハイバーヨー)」、つまり「1、2、3、乾杯!」という掛け声に合わせてグラスを合わせましょう。「Một trăm phần trăm(モッチャムファンチャム)」も覚えておきたい言葉です。これは「100%飲み干しましょう」の意味で、つまり「一気!」ということです。
- F社の事例:テト明けには社員全員でお寺にお参り
我が社は社員数が20人程度とそんなに大きくないので、テト明け初日に社員全員で近くの寺に参拝に行くのが恒例になっている。これには日本人管理職も必ず参加する。その後には新年会を行うのもお約束。そこで各社員に一言ずつ「今年の目標」を発表してもらうので、チームビルディングイベントの一つになっている。
一口解説:ベトナムにも初詣の習慣があります。社員全員が仏教徒の場合は問題ありませんが、カトリック信者がいる場合、お寺に参拝はできないので注意が必要です。ベトナムでは人口の1割近くがカトリックだと言われています。
- G社の事例:テト休み中にボーナスを使い果たしてしまった
テト前にボーナスを全額渡すと、テト中に全部使い切ってしまって、年始早々「お金がないから給料の前借りをしたい」という社員が続出したことがあった。それで今は、テト前とテト後に分けて支給している。
一口解説:テト中は、お酒を飲みながら賭け事に興じる人が少なくありません。そこで大金を失う場合もあります。「そこまで会社が配慮しなければならないのか」という気にもなりますが、テトの前後に分割支給という方法は、一つの対策ではあります。
- H社の事例:日本の企業からテト中に「視察をしたい」と申し入れ
「工場を何軒か視察に行きたいので、アポを入れてくれ」と頼んできた日本の企業があった。しかし希望の日程がまさにテト中。私が「ベトナムは旧暦なので、その頃は正月休みです」と言ったのだが、「旧暦の正月に休む会社なんて、ごく一部でしょう?」とベトナムの状況をご存じなく、聞き入れて頂くのに苦労した。
一口解説:こういう話は、毎年、何回か聞きます。テト期間中も操業を続けている工場もありますが、それでもこの時期の視察は避けるべきでしょう。中秋節(旧暦8月15日)の前も、得意先への挨拶周りにに忙しい会社が多いので、日本からの視察には適しません。
- I社の事例:テトボーナスは早めに支給
私の会社ではテトボーナスを、かなり早めに支給していた。帰省する社員が多く、彼らは出身地の親族一同にお土産をたくさん買い込まなければならない。「買い物をする時間が持てるように」というのが、その理由。
一口解説:故郷が遠隔地だと「帰省は年に1回」という人もいます。そうなるとお土産の量も多くなります。早めの支給は喜ばれることでしょう。「これはご両親に渡してください」と。社長から両親宛の手紙とお金を封筒に入れて渡した会社もありました。
ワンランク上のテトの過ごし方
ベトナム人にとってテトは、日本人にとっての正月以上の重みがあると言えます。それだけに、テトに関連する習慣を理解していると、ベトナム人社員からの評価は上がりますよ。
- Chúc mừng năm mớiに一言chúc tếtを付け加えてみよう
日本の「明けましておめでとうございます」に相当するのが「Chúc mừng năm mới」(チュックムンナンモイ)です。新年初出社のときには、皆さんこの挨拶をされたことでしょう。これに一言、年賀の挨拶chúc tết(チュックテト)を加えると、ベトナム人の社員から一目置かれること請け合いです。例えば「Anh chúc em hạnh phúc, mạnh khỏe, vạn sự như ý」(あなたが幸せと健康に恵まれ、万事が思い通りに進みますように願っています)というような感じです。チュックテトの内容に特に決まりはありません。典型的なフレーズを1つ覚えておき、すべての社員にそれを使っても大丈夫です。
- 小銭の入ったポチ袋を大量に用意しておこう
ベトナムにもお年玉の習慣があります。しかし日本とは少し違っていて、大人から子供に渡すとは限りません。家庭内では、成人した子供が親に渡すなど、大人同士でもやり取りします。また特に親しくない間柄でも渡して差し支えありません。掃除のおばさん、駐車場のスタッフなど、新年が明けて最初に会った人には、片っ端から配ってしまいましょう。こういう「バラマキお年玉」は「気は心」なので中に入れるお金は「気は心」です。とは言え、日本人管理職がベトナム人社員に配るときは、10万ドン札程度は入れたいところです。めでたい色である赤い色の5万ドン札を入れておくのも喜ばれます。
- その年の最初の客はとても重要
ベトナムでは年が明けて最初にやって来る訪問者はとても重要で、その年の運勢を左右すると考えられています。「正月、我が家に来てくれませんか」と招待されたら、とても名誉なことです。遠慮せずに訪問しましょう。ただし元日(特に午前)は家族だけで静かに過ごすのが一般的です。訪問するのは2日以降にしましょう。
- 獅子舞を呼んで景気づけをしよう
テト明け初日の朝には、会社に獅子舞のグループを呼んで、音楽と踊りで景気づけをしてもらいましょう。個人の家でも呼ぶことができます。
テトのタブーいろいろ
- 新年を迎えるときには、容器はすべて満杯にしておかねばならない。
米びつ、塩、砂糖の入れ物、はてはバイクのガソリンに至るまで、満杯にしておきます。これは来る新年の豊かさを保証すると考えられています。バイクや車も必ず洗車を済ませておきます。そのため大晦日の洗車屋さんは大混雑します。
- 掃除は旧年中に終え、テト期間は掃除をしてはならない。
掃除も大晦日までに終えます。テト期間中、特に3が日は掃除をしません。中でも元日は、ほうきを使って掃き掃除をするのはタブーです。これはホコリと一緒に、金運や幸運まで掃き出してしまうと考えられているからです。三が日はゴミ回収も来ません。ゴミ箱がいっぱいになっても、ゴミ袋は家の中に置いたままです。
- 借金は年内に返済。テト期間中、金品を借りてはいけない。
借りたものは、旧年度中に返すようにします。そうしなければ、新しい年が借金に苦しめられると考えられているから。テト期間中に、お金を貸すと、その年はお金が出て行く一方の年になると信じられているので、避けられます。
- 自分の身内に不幸があった人は、テト期間、他家を訪問してはならない。
喪中の人は、元日だけでなく、年賀の挨拶のために他家を訪れるのはご法度です。病気や怪我をしている人も歓迎されません。これは訪問先の家に不幸を持ち込むと考えられているから。来客を迎えるのは問題ありません。
- 喧嘩をしたり、怒鳴ったりしない。
テトの間は笑顔でいることで、その年を幸運を呼び寄せることができると考えられているからです。食器を割ってしまったりするのも「縁起が悪い」と受け取られるので、この時期は食器を洗う際は、普段よりも注意深くなりましょう。
文/友野昭 (ともの・あきら)
1995年の初渡越以来、 ベトナムと日本を頻繁に行き来しながら、ベトナムの旅行・生活・ビジネスに 関する情報発信をしている。 ベトナムへの移住や進出に関するご相談があればエミダス編集部まで