労働法に関わる罰則規定で、2022年1月17日に公布・施行された政令12/2022/ND-CP(政令12)に関する解説の続きです。今回も従来からある罰則規定の中で、実務において特に注意が必要なものを選んで取り上げます。なお、下記の罰金額は個人に対して適用される際の金額となっています。組織に対する罰金となる場合には、金額が2倍となります(政令12第6条1項)。
Ⅲ.実務上の注意が必要な事項
⑥被雇用者への誤解による差別
雇用者が以下のような違反行為を行った場合、500万VND~5,000万VNDの罰金となります(同政令第23条2項)。
(ⅰ)被雇用者自身の生命や健康を深刻に脅かす労働災害のリスクが明らかな状況下で、業務を拒否した者や職場を離れた者に対する差別を行う。
(ⅱ)労働安全衛生事務の担当者・安全衛生係員・医療担当者が、職場における労働安全衛生確保のための業務・職務を遂行した事に関して、雇用者がそれを理由に差別を行う。
⑦労働争議に関する違反行為
雇用者が以下のような違反行為を行った場合、500万~1,000万VNDの罰金となります(同政令第34条3項)。
(ⅰ)ストライキを行う準備をした、あるいは参加した事を理由に、雇用者が被雇用者、ストライキの指導者の雇用契約を解除、または規律違反処分をした場合、もしくは別の業務や別の職場に異動させた場合(同政令第34条3項a)。
(ⅱ)雇用者がストライキに参加した被雇用者、ストライキの指導者への差別待遇や報復行為を行った場合(同条3項b)。
(ⅲ)労働法第206条に規定されている時点(注:ストライキ開始日時の12時間前、あるいはストライキの停止後)において、雇用者が一時的に職場を閉鎖した場合(同条3項c)。
(ⅳ)職場の労働組合がその組合員と討論し、意見を聴取する過程において、妨害や干渉を行う(同条3項d)。
⑧労働災害、および職業病の発生時における違反行為
雇用者が以下のような違反行為を行った場合、被雇用者一人当たり200万~400万VNDの罰金となります(同政令第23条1項a~d)。ただし、最大の罰金額は合計で7,500万VNDを超えません(同条1項)。 また、雇用者は罰金額の支払い以外に、それぞれの場合における、法規に基づく医療費の負担額・未払い額、補償額などを、被雇用者に対して清算する義務も生じます(同条3項)。
(ⅰ)労働災害に遭った被雇用者の応急救護措置を、雇用者が迅速に行わない(同条1項 a)。
(ⅱ)医療保険に加入する労働災害・職業病に遭った被雇用者が、自己負担した医療費・医療保険の対象となるリストにない医療費を、雇用者が負担しない(同条1項b)。
(ⅲ)医療保険に加入していない労働災害・職業病に遭った被雇用者の応急処置の費用の前払いと、救急治療時から容体の安定までの医療費全額の負担を、雇用者が行わない(同条1項c)。
(ⅳ)雇用者が、労働災害・職業病に遭った被雇用者に対する手当・補償制度をまったく履行しない、あるいは正しく履行しない(同条1項e)。
(ⅴ)従業員の作業能力の低下程度を、医学的鑑定評議会に評価させて、能力の低下が5%未満と結論が出た場合、雇用者がその評価で発生する補償を支払わない(同条1項đ)。
(ⅵ)労働災害に遭った、あるいは職業病に罹った被雇用者が、法規に基づく労働能力の喪失率の医学的鑑定・治療・介護・機能回復を受けられるように、医療機関に紹介しない(同条1項d)。
文/斉藤雄久(さいとうたかひさ)
東京都葛飾区出身、 早稲田大学社会科学部卒。 1994年12月のハノイ大学 への留学以降、 ベトナム在住は25年以上となる。 現在 AIC Vietnam Co.,Ltd. の President。当地での豊富なビジネス経験に基づく独自の観点から、法規に 基づく最も実務的なアドバイス業務を実践するほか、 国内外での講演も多数。