ベトナムには成形関連のすべての業態が存在する。最も多いのは射出成形工場で、バイク、携帯電話、家電製品、OA機器など樹脂部品のニーズが高い産業に対応している。次に多いのは真空成形やブロー成形工場だ。近年は韓国や中国、台湾のメーカーの進出に伴い成形メーカーも増えている。ベトナムには成形関連のあらゆる業種に対応できる体制が整っていると言えよう。
進化するローカル企業
成形機を数百台所有するTenma、Nissei等の大手成形メーカーから中小企業まで、様々な規模の工場がある。外資では日系企業の進出時期が早く、製品メーカーの進出に伴いベトナムに工場を設立する企業が増えた。それらの企業は、ベトナム人材の育成にも大きく貢献している。進出当初は現地の人材育成は想定していなかったが、現地スタッフは仕事を通じて技術や生産管理等を学び、成長している。彼らの多くは10年ほど勤めた後に独立し、同業態で樹脂部品の製造・販売を行っている。100台規模の成形機を持つローカル企業はまだ数少ないが、30台規模の工場は珍しくない。
古くから進出している日系企業では、スタッフの成長に伴い現地化が進んでおり、その流れでローカル成形メーカーに発注する傾向が見られる。逆に、新規に進出してきた企業は安心感から日系に発注することが多いようだ。仕事はほとんどがOEM(相手先ブランドによる生産)で、国内の外資系企業や海外市場から受注している。地場の家電メーカー、携帯電話メーカーもあるが、これらの企業は主に中国から部品を輸入している。
ローカル成形メーカーの中には、レンズ、ギアー、プリンターの駆動部、携帯電話部品など、精度を要求される部品を一部製造している企業もある。例として、Sunpla、Hien Le、Nhat Minh、Bac Viet Technology、Ecotek、HTMPといった企業が挙げられる。
一方、自動車部品など大型成形品を取り扱うメーカーはまだ少ない。理由は、内製化を進める顧客の増加、投資額の高さ(機械が高額で大きな工場を要する)、自動車部品の現地調達の遅れなどの課題があるからだ。しかし近い将来、家電製品や自動車製造における需要増に伴大型成形メーカーも増えていくだろう。
ベトナムでは日本製、台湾製、中国製の機械がよく使用されている。射出成形機は日系メーカーが強いが、最近は価格や納期の面で有利な中国や韓国メーカーを選ぶ成形メーカーも増えている。日本製の設備は高額なため、最初から新品を導入するローカルメーカーは多くはない。成形工場を持ち、中国製樹脂成形設備を扱っているローカル商社の担当者は次のように述べた。
「弊社では中国製樹脂成形機がよく売れているが、高精度の部品を製造するには確かに日本製設備への投資が必要だと思う。日本製のほうが安定性が高いからだ。また、人間によるミスを削減する目的で各種ロボットやコンベヤーを導入する企業も増えている。最近は成形行程を補助するロボットの販売で大きな利益をあげている」
成形後工程と金型の内製化
印刷や塗装は比較的内製しやすいため、社内で行う成形メーカーが多い。二輪メーカー等は社内で塗装をしている。もちろん塗装専門メーカーもあるが、数は少ない。めっきは環境対応が難しく、認可も下りにくいうえ、需要があまり多くないためメーカーは少ない。組立については、簡易的な組立は成形メーカーでも行っているが、ほとんどの顧客は内製化している。将来的に大企業の人件費が高騰して賃金格差が生まれれば、サブ組立など外注化が進むかも知れない。
成形金型については、自社制作、他社外注、または輸入という形態がある。外資の成形メーカーはローカルの金型企業に頼むこともあるが、品質や納期に関して、まだ満足できるレベルではないと言われており、ローカル顧客にも同意見が少なくない。金型企業が顧客ニーズに応えるために成形事業を展開するケースもあるし、成形メーカーが安全性や納期を守るために金型の内製化を進めるケースも多く見受けられる。あるローカル成形メーカーの担当者は次のように語った。
「我が社は現在、金型を外注しているが、内製化の予定がある。理由は、数社のローカル企業に製作を依頼したが、材料の熱変形量等を分からないまま金型を作るので、実際に成形する時に不良率が高かった。何回も修正したが、なかなか改良できず、結局、解約してしまった。勉強代とはいえ、数千万円の損害となった。その後、技術指導できる協力会社を探すために日本を訪れた。日本の会社は、小さいのに技術知識が非常に深く、驚いた」
ベトナムには現在、金型設計・製作を教える専門学校がなく、すべては仕事を通じて蓄積した経験がベースとなっている。
課題と今後の展望
成形業界も他の業界と同様、人材育成が進んでいない。技術面において、日本のように資格や教育機関がなく、根拠から実践できる知識を教える施設がないからだ。成形工場に数年間勤めた経験あっても、実際は成形機を扱う経験だけで、材料の特性等に関する知識は乏しい。よって教育はすべて社内で行うほかない。しかし、先輩がいくら教えたところで基礎知識を持たない後輩は十分に理解できず、よくミスを出してしまうのが実情だ。また、成形メーカーの増加により技術職の人材引き抜きや転職が増えたことで、人材確保も難しくなっている。特に日系企業での勤務経験がある者は転職に有利で高給優遇されている。最近は一般の人件費も上がっており、ワーカークラスでも仕事ができる人材の確保は困難な状況にある。
サプライチェーンの移転傾向は、ベトナムの成形業界にも多くのチャンスをもたらしている。中国との比較はまだ長らく続くが、ベトナムに進出する企業は着実に増えており、成形業界はますます発展するだろう。日系企業の課題としては、QCD(品質・コスト・納期)やサービスにおいてローカルメーカーとの差別化が求められる。一方、ローカルメーカーは設備導入、技術向上、生産管理、人材育成といった課題をクリアしていく必要がある。OEMをこのまま続けても、品質要求はより厳しくなり、利益率確保は困難となるだろう。そうした中、最近は自社製品の研究開発を目指すローカルメーカーも出てきた。今後のベトナムの成形業界において、特にローカルメーカーがどのように進化していくのか、楽しみに見ていきたい。
文 株式会社NCネットワークベトナム Nguyen Thu Phuong
取材協力 Daiwa Plastics Thang Long Co.,Ltd, SSP Moulding Co.,Ltd, An Phu Viet Plastics Co.,Ltd, Van Long Plastic Co.,Ltd, Hikari Vietnam Production and Trading Co.,Ltd等