需要増加で市場拡大

　ベトナムの樹脂産業の内訳をみると、エンプラ成形部品が全業界の生産価値に占める割合はわずか16.1％だが（ベトナム樹脂協会の2021年第1四半期時点のデータ）、近年消費量が急増している市場において、エンプラ部品成形業界は製造業全体の発展とともにさらに大きな成長が期待される。

　90年代から自動車、オートバイ、家電メーカーといった大手企業が進出しはじめ、下請けの外資製造企業も次々とベトナムに工場を設立する中で、現地の樹脂成形企業も育ち始めた。特にサムスンやアップル等の大手電子メーカーの発注により、小型の樹脂部品に関するニーズが著しく高まったことで、樹脂成形業界の活動が何倍にも盛り上がってきた。大規模な外資系企業とともに、海外企業に見劣りしない工場インフラを持つローカル企業も現れている。

　FPTグループ傘下の証券会社であるFPTセキュリティーズの2019年樹脂産業レポート内で引用されている統計総局のデータによると、ベトナムで活動している樹脂成形企業は約3,300社で、そのうち約15％はエンプラ成形の企業である。また、企業を直接訪問した実感としても、ベトナムの加工分類構成において樹脂成形の企業が多くの割合を占めていることがわかる。

　ローカル企業の場合、ジェトロハノイ事務所の調査「ベトナム優良企業ダイレクトリー（北・中部）2021年版※」によると、樹脂成形という加工分類に区分される企業数はかなり多く、他の加工と併せて樹脂成形を行っている企業も多い。さらに、樹脂成形を行っている日系、韓国系、台湾系、マレーシア系等の外資系企業も数百社ある。

現地調達率の低さが課題

　エンプラ製品は種類や寸法が多岐にわたり、主に自動車・オートバイ産業向け部品、電気・電子産業向け部品、OA機器部品や部品トレー等として供給されている。現地で普及している成形法は射出成形、ブロー成形、真空成形で、主要な材料は熱可塑性樹脂（温度が高いと溶融し、冷えると固化する性質の樹脂）である。押出成形、インサート成形、二色成形を行う企業や、熱硬化性樹脂（熱を加えると固化する性質の樹脂）を取り扱う企業は数少ない。

　ハノイ市、ホーチミン市とその周辺（北部はバクニン省、ビンフック省、フンイエン省、ハイズオン省、南部はドンナイ省、ビンズオン省、ロンアン省）には大手メーカーの工場が多く、地の利やインフラの利便性も手伝って樹脂成形企業が集結している。ローカル企業と外資系企業には大きな違いがあり、ローカル企業が主に小～中サイズの部品を製造しているのに対し、日系や韓国系企業は微細部品や大型部品の製造を得意としている。大手メーカーは一部の部品をローカル企業に発注しているが、微小サイズや特別な形状の部品、高精度が求められる部品は依然として外資系企業に信頼を置いているという意見が多い。

　材料供給についてはエンプラ業界も他の産業と同様、現地調達は極めて不十分と言える。現在、ビンソン製油所、ギーソン製油所、フーミー樹脂・化成品会社、TPC社、フォルモサ社等がPVC、PP、PET、PSという4種のプラスチックバージン材を製造しているが、対応できる割合は内需のわずか18％に過ぎない。HDPE、ABS等のエンプラや添加剤、コンパウンド製品は主に輸入されている。

　Toyo Ink Compounds Vietnam（日系）、Masterbatch Vietnam（オーストラリア）、Euro Plastics、Binh Minh、Dai A Plastics（ベトナム）といった企業がコンパウンド製品を製造・販売しているが、日増しに増加する樹脂材料の調達ニーズには足りていない。このことにより各企業の生産コストが上がり、中国の企業をはじめ、同地域における他国企業と競争し、グローバル市場で受注を獲得することが難しくなる。また、国内市場では品質、安全性、環境保護の要求が高い部品に対し、どの材料をどのサプライヤーから購入するか、クライアントより指定されることもある。

　次号では、樹脂成形法ごとの各企業の実態及び金型調達、人材教育について詳述する。

※日本企業と取引可能なパートナーの情報を提供する目的で、ジェトロハノイ事務所がベトナムの中小製造企業の生産能力を調査し、2009年から定期的に発刊している資料。

文　株式会社NCネットワークベトナム　Nguyen Thu Phuong／Nguyen Hoang Giang