どんな会社にも独自の文化があり、文化がその会社の習慣と価値観を示すものである。企業文化は社長から幹部へ、幹部から一般社員へ伝えられる。日本を代表する企業であるトヨタにも人を育てる独自の文化があり、それは語りつがれている「口ぐせ」で示す。今回紹介する『トヨタの口ぐせ』は、トヨタの元現場リーダーたちを中心に取材し、トヨタで口ぐせのように語りつがれている言葉をまとめ、その言葉の背後にある考え方に迫ろうとしたもの。本文の中から、気になったポイントをチェックしよう。
おまえ、あそこ行ったのか、俺は行ってきたぞ
トヨタには「現場・現物・現実」という三現主義がある。実際に現場に行き、現物を用いて考え、現実を捉える。それが社内に浸透し、トップ自らがこれを実行し、社員に指示し続けている。
「トヨタでは、トップ自らがすぐに現場に行くのです。現場が大好きなのでしょう。まさに率先垂範ですよ」
そう語るのは、本書を著した「OJTソリューションズ」の専務取締役・海稲良光氏。同社はトヨタ自動車とリクルートグループが共同出資するコンサルティング会社で、海稲氏自身も元トヨタマンである。
何もしないより、何かやって失敗したほうがいい
本書に登場するトヨタマンの1人である西先健二氏は、トヨタに入社たばかりの頃、上司から「何もしないより、何かやって失敗したほうがいい」と言われ続けた。
「私は入社して本社工場に配属されました。若い頃は何か仕事を命じられたときに、『できないと思います』とか『ムリだと思います』とつい口にしてしまうことがありました。そういうときに、上司にひどく叱られましたね」
上司から返ってくる言葉は決まっていた。「やってみてから何か言え!」まずはやってみて、うまくいかなかったら、問題点がどこにあるのかを洗い出す。それでもできないなら仕方がない。それなのに、「やってもいないうちに、なぜできないと言えるのか」ということである。
改善は巧遅より拙速
同じく本書に登場する山森虎彦氏には、上司から常々言われてきた言葉がある。それが、「カイゼンは巧遅(こうち)より拙速(せっそく)」である。
「トヨタでは通常の業務をやるのは当たり前のことです。そして、当たり前のことをやっているだけではダメで、常にカイゼンをやらなくてはいけない。 そのカイゼンのやり方として、『カイゼンは巧遅より拙速だぞ』と上司から言われ続けました」
つまり、どんなに優秀でも、行動が遅ければ評価されない。
これらの「口ぐせ」は、良いものづくりをする基盤でもある。トヨタだけでなく、他の日本企業にも浸透し、人づくりに活かされていると思っている。本書には面白い「口ぐせ」がたくさん紹介されているので、ぜひ一度読んでみてほしい。
文/ブイ・リン
名古屋工業大学大学院卒業後、 (株)パロマに入社。生産ラインの改善、 生産ラインの立ち上げ ・ 管理、 品質管理等のさまざまな業務を経験し、 2021年9月、 ベトナムに帰国。 ベトナム製製品の品質向上を目指し、 中小製造業企業向けの 「日本式品質保証システム構築」 コンサルタントとして活動している。