4月になると、新しくベトナムに赴任してこられる駐在員さんがたくさんいらっしゃると思います。中にはベトナムが初の海外駐在という方がいらっしゃるかもしれません。今回は、うまく対応しないと業務の障害となりかねない「意外な伏兵」=「日本からの来訪者との対応」について、先輩駐在員の方々から頂いた体験談を紹介します。
Case 1:本社からの出張者が多い
海外駐在員にアテンド業務(日本本社からの出張者対応)はつきものだと分かっていても、実際に受ける側に回ると「予想以上に大変だった」と感じる人もいるようです。最初に登場頂くAさんは日本のメーカーさんのベトナム駐在員です。
──ベトナム現地法人を立ち上げた当初は、日本の本社からの出張者が多かったんですねえ。現状を視察するのはもちろん、応援の意味で来てくださるのでありがたいことなのですが、数が多いと苦痛になりました。
来られるのは、どういう方が多かったのですか。
──基本的に私より上席の方です。
気を使いますねえ。アテンド業務の内容を具体的に教えて頂けますか。
──事前準備としては、ホテルの確保はもちろん、昼食・夕食のレストランの予約、移動のための車など。到着されたら空港へ出迎え。滞在中は、現地代表である私が、日本語が話せるベトナム人秘書と共に、朝食から夕食後のお酒まで、終日同行します。
アテンド中は通常業務をする時間がなくなってしまいますね。
──「出張中にベトナムのゴルフコースでプレーしたい」という人間もいて、週末も潰れてしまうことがあります。一緒にプレーする場合、たいていは私の分のプレー費も出してくださるのですが、率直な気持ちとしては「ゴルフより休養」または「週末の間に平日にできなかった業務を片付けたい」でした。当時、日本人社員は私一人。本来業務との両立には苦労しました。
何か対策はされましたか。
──どこもされているとは思いますが、オンライン会議を増やすことでしょうか。中には、出張と言いつつ、半分観光気分の人もいるわけですよ。そういう人が来るたびに、毎回、ハロン湾クルーズにお付き合いするので、ハロン湾にはすっかり詳しくなりました。オンライン化を強力に進めることで、そういう「仕事半分・遊び半分」の出張は減らすことができたと思います。
アテンドしていて良かったと感じたことはありますか。
──「日本の本社で普通に仕事をしていたら接点がない会社の上層部の人に会う機会がある」ことでしょう。わずか数日間とは言え、朝から晩までずっと一緒に過ごすわけですから、顔は覚えてもらえますし、普段は聞けないような話が聞ける場合もあります。
本社に帰任したときに、それが何かプラスに働くかもしれないですね。
Case 2:社外からの「困った視察者」
日本から来られるのは、親会社の人間ばかりではありません。ベトナムへの事業進出、またはベトナムでの取り引き先を開拓しようと考えている他社の方から「現地事情をお伺いしたい」とか「視察させて頂きたい」という依頼を受けることがあります。「ベトナムに視察に来られた方に、現地事情をお話するのに、決してやぶさかではないのですが」と前置きをした上で、「困った視察者」の実例を紹介してくださったのは、人材関係の仕事をされているBさんです。
──人材ビジネスというのは、現地の景気を見るいい指標の一つですから、「最近のベトナムの景気について話を聞かせて欲しい」と来社される方が時々、いらっしゃいます。4~5人程度の少人数の方が相手とは言え、こちらはそれなりの時間をかけて、1時間くらいは話が持つレジュメを用意して臨むわけですよ。ところがメモをとらないばかりか、居眠りしそうな人もいて、「よっぽど私の話が退屈なんだろうか」と不安になることがあります。
私はBさんが登壇されるセミナーに参加したことがありますが、お話は上手でしたよ。
──ありがとうございます。視察者の話に戻しますね。私の話が終わったとたん、皆さん元気になって「先生を囲んで記念写真を撮りたいんですが」。レジュメを胸の前に掲げて全員で写真を撮るんです。私は「そのレジュメ、あなた、全然目を通していないでしょ」と心のなかでツッコミを入れながら、笑顔で写真に収まります。おそらく日本に戻ったときの報告書に写真が必要なんでしょうね。
私も同様の経験をしたことは数え切れません。夕方に面談が組み込まれていると、終了後に「どこか美味しいベトナム料理店を教えて頂けませんか」と聞かれることもあって、そのときは熱心にメモを取られるんですよ。
──ベトナム料理店ならまだいいですよ。私は「安全に女性を買える店を教えて欲しい」と頼まれ、非常に腹を立てたことがあります。
私はそういう質問を受けると「ベトナムで買春が見つかると、パスポートは没収され、顔写真が新聞に載りますよ」とたっぷり脅します。そういう人は、何らかのルートで情報を得て、結局は女性を買いに行くんですけどね。
Case 3:視察者の本気度の見極め方
次にご登場頂くCさんは、来訪者を積極的に受け入れているIT関連企業の方です。
──面識もない方から「ご挨拶にお伺いしたい」というメールをよく頂くのですが、あれって、何なんでしょうね。アメリカで会社を経営している同業者の友人がいるのですが、彼が「日本人の『ご挨拶したい』という訪問はアメリカのIT業界では悪名が高い」と言っていました。私も目的がはっきりしない面談依頼はお断りするようにしています。
それ、よく分かります。私自身も同様のメールがたくさん来ますから。私は「まずは目的をお聞かせください。せっかく来て頂いても、私では御社がお求めの情報を持っておらず、無駄足を踏ませることになっては恐縮ですから。私でお役に立てる内容でしたら、喜んでお目にかかります」と返信します。驚いたことに、その時点で連絡が来なくなる企業さんが、少なからずあるんですよ。
──それ、めちゃくちゃよく分かります。面談を申し入れていながら、その目的が文章化できないって、どういうことなんでしょうね。「ベトナムのIT事情についてレクチャーをお願いしたい」とか「御社がベトナムで仕事をしていて何に困ったかを聞かせて欲しい」とか「取り引き先になりそうな企業を紹介して欲しい」とか、何でもいいんですが、それが出てこない……。
私は、最初は面談依頼があったら、なるべく受けるようにしていたんですよ。でも、あまりにもむなしい結果になることが多くて、「お目にかかるのは、事前に質問リストを送ってくださる方のみ」というハードルを設けました。
──私も事前のメールのやり取りで、実際に会うかどうか、ふるいにかけるようにしています。すると8割くらいは会わずに終わりますね。
Case 4:面談料を有料化したら
前出のBさんも、Cさんも、視察者の対応は無料で受けています。一つはボランティア精神、もう一つは「どこかで自分の事業のプラスになるかもしれない」という期待があるからです。しかし、今から紹介するDさんは「面談は有料」を打ち出しました。
──別にお金が欲しいわけじゃないんですよ。私の話にそれほど価値があるとも思っていませんし。有料化したのは、面談希望者があまりにも多くて、自分自身の仕事をする時間がかなり取られてしまうので、不真面目な面談者を排除するのが目的です。
反応はどうですか。
──理解してくださる方が大部分ですね。「有料」というと、面談前のメールのやり取りに真剣味が増すのが面白いですよ。ただ中には怒り出す人もいます。「ベトナムに関して情報を提供するだけで金をとるのか。お前は守銭奴か」と言われたこともあって、速やかに面談をお断りしました。情報の価値を認識していない人に、情報を提供してもむなしいですから。
ところで面談料はおいくらなんですか。
──相手の本気度を試せたらいいので、実際にお金を頂戴したことはないんですよ(笑)。
まとめ
ベトナムで働いていると、本社からの出張者、社外からの視察者など、日本からの来訪者と対応する機会がとても多くなります。友人から「ベトナムに旅行をするから付き合って!」と頼まれることも少なからずあるでしょう。ベトナムで良い業績・結果を出すために、これらの来訪者との上手な付き合い方を、一度、考えてみてはいかがでしょうか。
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【エミダス博士】 ベトナム生活に関する雑学博士。 長年のベトナム暮らしで得た知識を元に、当地で暮らす方々が直面する様々な質問にお答えします。 難問・奇問、大歓迎。 知りたいことがあれば、 emidas-m@nc-net.vn まで。